「歩けなくなるのが怖い」— あなただけではありません

日本に約580万人。腰部脊柱管狭窄症は、決して珍しい病気ではありません。


このコラムについて

はじめまして。整形外科医の加藤裕幸です。

普段は東海大学医学部と湘陽かしわ台病院で、腰や背骨の病気で悩む患者さんの診療にあたっています。外来では、多くの患者さんから同じような言葉を聞きます。

「歩いていると足が痛くなって、途中で立ち止まってしまうんです」

「スーパーでカートを押していると楽なんですけど、手ぶらだとつらくて」

「最近、散歩の距離がどんどん短くなってきて……」

もし、あなたにも心当たりがあるなら——それは**腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)**のサインかもしれません。

この連載では、この病気について、週に一度、少しずつわかりやすくお伝えしていきます。病気のしくみから、治療の選択肢、手術を受けるかどうかの判断まで。不安を「理解」に変えるお手伝いができればと思っています。

公園を散歩する高齢者のグループ


580万人が抱える病気

腰部脊柱管狭窄症は、50歳以上の方の約10人に1人に見られるとされています。日本国内の推定患者数は約580万人。つまり、あなたのご近所にも、同じ悩みを抱えている方がきっといます。

この病気は、加齢とともに背骨の中にある「トンネル」(脊柱管)が狭くなり、中を通る神経が圧迫されることで起こります。詳しいしくみは次回お話ししますが、まず知っておいていただきたいのは——

これは、誰のせいでもありません。

長年、体を支えてきた背骨に起きる、ごく自然な変化です。「自分の姿勢が悪かったから」「運動不足だったから」と、ご自身を責める必要はありません。


こんな経験はありませんか?

腰部脊柱管狭窄症の最も特徴的な症状は、**間欠性跛行(かんけつせいはこう)**と呼ばれるものです。

  • 歩いていると、だんだん足が痛くなったり、しびれたりする
  • 少し休むと(座ったり、前かがみになると)楽になる
  • また歩き出すと、しばらくするとまた痛くなる

歩行と休憩を繰り返す間欠性跛行のイメージ 間欠性跛行:歩くと痛みが出て、座って休むと楽になる

「前は30分歩けたのに、最近は10分で休まないといけない」——こんな変化を感じている方も多いのではないでしょうか。

面白いことに、自転車に乗っているときは平気だったり、スーパーのカートを押していると歩けるということがよくあります。これは、前かがみの姿勢になると脊柱管が少し広がり、神経への圧迫が和らぐからです。

歩行時の痛みの進行と脊柱管の変化 身体を伸ばすと神経が圧迫されて坐骨神経痛が出現しますが、前かがみになると神経の圧迫が緩和されて痛みが落ち着きます。


「我慢」は美徳ではありません

外来で患者さんとお話しすると、多くの方がこうおっしゃいます。

「まだ歩けるから大丈夫です」

「年だから仕方ないと思って」

「家族に心配かけたくないから、あまり言わないようにしていて」

お気持ちはとてもよくわかります。でも、医師として正直に申し上げると——痛みやしびれを我慢し続けることは、必ずしも良いことではありません。

なぜなら、神経は長い間圧迫され続けると、回復が難しくなることがあるからです。

「我慢できる」と「悪くなっていない」は、同じではありません。

今すぐ手術が必要だとか、何か大変なことが起きるとか、そういうことを申し上げたいわけではありません。ただ、「まず知ること」が、不安を和らげる一番の方法だということをお伝えしたいのです。


この連載で一緒に学んでいきましょう

この連載は、全24回を予定しています。4つのステップで、少しずつ理解を深めていきます。

ステップ テーマ 内容
知る 病気を理解する 脊柱管狭窄症のしくみ、症状、検査、保存療法
向き合う 治療を考える 手術への不安、判断の基準、手術の種類
決める 手術と回復 手術の準備、当日の流れ、リハビリ、日常生活
その先へ 未来を見据える 再発予防、痛みが残る場合の選択肢、ご家族へ

毎週1テーマずつ、5〜7分で読める長さでお届けします。

一人で悩まず、一緒に学んでいきましょう。あなたは、決して一人ではありません。