「手術しなくても治る?」— 保存療法という選択肢

脊柱管狭窄症の治療は、手術だけではありません。


前回は、病院での診察と検査の流れについてお話ししました。検査で脊柱管狭窄症と診断されたあと、多くの場合はまず**保存療法(ほぞんりょうほう)**から始めます。

「手術しなくても良くなることがあるの?」——はい、あります。

理学療法士と一緒にやさしいストレッチをする年配の女性 手術の前に、できることがたくさんあります。


保存療法とは

保存療法とは、手術をせずに症状の改善を目指す治療法の総称です。

嬉しいことに、軽度から中等度の脊柱管狭窄症では、約30%の患者さんが保存療法で症状が改善するというデータがあります。

「30%」という数字を聞いて、「少ない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも、3人に1人は手術をしなくても良くなる可能性があるということです。まずは試してみる価値は十分にあります。

保存療法にはいくつかの種類があり、組み合わせて行うことが一般的です。


1. 薬物療法

もっとも手軽な治療法です。症状の種類に応じて、さまざまな薬が使われます。

よく使われる薬

薬の種類 代表的な薬 何に効くか
消炎鎮痛薬(NSAIDs) ロキソニン、セレコックスなど 炎症による痛みを抑える
神経障害性疼痛の薬 リリカ、タリージェ 神経由来のしびれ・痛みに効く
血流改善薬 プロスタグランジンE1(オパルモンなど) 神経周囲の血流を改善
筋弛緩薬 ミオナール、テルネリンなど 筋肉のこわばりを和らげる

薬について知っておいてほしいこと

薬の効き方には個人差があります。 最初の薬が合わなくても、別の薬で楽になることはよくあります。「この薬は効かなかった」と思っても、諦めずに主治医にお伝えください。

副作用(胃の不調、眠気、むくみなど)が出ることもあります。我慢せずに、気になることは何でも相談してください。薬の種類や量を調整することで、副作用を減らしながら効果を得られることが多いです。

また、薬で痛みが完全になくなることは難しいかもしれません。でも、「痛みが半分になった」「歩ける距離が伸びた」——そうした改善だけでも、日常生活は大きく変わります。


2. ブロック注射

薬の飲み薬で十分な効果が得られない場合、ブロック注射が検討されます。

硬膜外ブロック

脊柱管の中にある**硬膜外腔(こうまくがいくう)**に、局所麻酔薬とステロイド(炎症を抑える薬)を注射します。

  • 目的: 神経の周囲の炎症を直接鎮める
  • 所要時間: 10〜15分程度
  • 痛み: 注射部位にチクッとした痛みがあるが、我慢できる程度
  • 効果: 数日〜数週間、人によっては数ヶ月持続

神経根ブロック

圧迫されている特定の**神経根(しんけいこん)**を狙って注射する方法です。硬膜外ブロックよりもピンポイントに効きます。

ブロック注射の意味

ブロック注射には、痛みを和らげるだけでなく、もう一つ大切な役割があります。

それは診断的な意味です。

「ブロック注射で楽になった」ということは、その部分の神経が痛みの原因であるということを確認できます。つまり、もし手術をした場合に改善する可能性が高い、という目安になるのです。


3. リハビリテーション

薬やブロック注射と並んで、とても重要な治療法がリハビリテーションです。

なぜリハビリが大切か

脊柱管狭窄症の痛みで歩くのがつらくなると、外出が減り、運動量が落ちます。すると筋力が低下し、さらに歩きにくくなる——悪循環に陥りがちです。

リハビリは、この悪循環を断ち切るための取り組みです。

リハビリの内容

メニュー 内容 目的
体幹トレーニング 腹筋・背筋の軽い運動 腰を支える筋肉を強化
ストレッチ 股関節、ハムストリングの柔軟性を高める 腰への負担を分散
姿勢指導 日常の動作(立ち方、座り方、物の持ち方) 神経への圧迫を減らす
有酸素運動 ウォーキング、自転車、プール歩行 全身の血流改善、筋力維持

「安静にしていた方がいい」は間違い

「腰が痛いから動かない方がいい」と思われている方が少なくありません。

しかし、過度な安静は逆効果です。動かないと筋力が落ち、関節が固くなり、症状が悪化することがあります。

もちろん、痛みが強い急性期に無理をする必要はありません。でも、痛みが落ち着いてきたら、できる範囲で体を動かすことが、長い目で見て大きな差を生みます。

おすすめの運動: 自転車(前かがみ姿勢)やプールでの歩行は、腰への負担が少なく、脊柱管狭窄症の方に特に適した運動です。


4. コルセット(装具)

腰を支えるコルセットを一時的に使用することがあります。

  • 痛みが強い時期に腰を安定させる
  • 外出時の安心感を得る

ただし、長期間の使用はおすすめしません。 コルセットに頼り続けると、腰を支える筋肉が弱くなってしまうからです。症状が落ち着いてきたら、少しずつ外していく方向で考えましょう。


保存療法の期限

ここで一つ、大切な話をさせてください。

保存療法はとても重要ですが、「いつまでも保存療法で粘る」ことが良いとは限りません。

保存療法を数ヶ月続けても改善しない場合、または症状が悪化している場合は、他の治療法(手術を含む)を検討する時期かもしれません。

  • 「保存療法で我慢する」と「保存療法で改善する」は違います
  • 神経は長期間圧迫されると、回復が難しくなることがあります
  • 「まだ大丈夫」と思い込んで受診を先延ばしにすると、良い結果を逃すことも

保存療法で十分改善できる方も多いですし、手術が必要になる方もいます。どちらも間違いではありません。 大切なのは、定期的に主治医と相談しながら、適切なタイミングで判断することです。

次回は、この「タイミング」について、もう少し詳しくお話しします。


まとめ

  • 保存療法には薬物療法、ブロック注射、リハビリ、装具がある
  • 約30%の方は保存療法で改善する
  • 薬の効果には個人差がある——合わなければ変えてもらう
  • 安静にしすぎは逆効果。できる範囲で体を動かすことが大切
  • 保存療法で改善しない場合は、次のステップを検討する時期