「手術が怖い」— その不安、当然です
手術の前に不安を感じるのは、多くの患者さんに共通することです。あなただけではありません。
ここからPhase 2「向き合う」に入ります。これまで6回にわたって、脊柱管狭窄症のしくみ、症状、検査、保存療法についてお伝えしてきました。
今回からは、多くの方が不安に感じている手術について、正面からお話ししていきます。
不安を感じるのは、自然なことです。一人で抱え込まないでください。
不安は「弱さ」ではありません
「手術と聞いただけで、体がこわばります」
「家族に相談されて、ネットで調べたら怖くなりました」
「テレビで手術の失敗例を見て、踏み切れません」
こうしたお気持ちは、外来で毎日のように耳にします。
手術を控えた患者さんの多くが、不安を感じています。不安を感じないほうが珍しいくらいです。
手術が不安なのは、弱いからでも臆病だからでもありません。自分の体のことを真剣に考えているからです。
患者さんが抱える「5つの不安」
外来やアンケートで寄せられる不安を整理すると、大きく5つに分けられます。一つずつお答えします。
不安1:「麻痺にならないか?」
これが最も多い不安です。
腰椎(腰の部分)の手術で、完全な麻痺が起きることはまれです。
まれである理由の一つは、今の手術では術中神経モニタリング(手術中に神経の状態をリアルタイムで監視する装置)を使うのが一般的だからです。神経に影響が出そうな操作があれば、すぐにわかります。
また、腰椎の手術では脊髄(せきずい)そのものを操作するわけではありません。腰椎の高さでは脊髄はすでに終わっていて、手術の対象は馬尾神経(ばびしんけい)という、比較的回復力のある神経の束です。
ゼロとは言いません。気になる方は、ご自分の手術での見込みを主治医に聞いてみてください。
不安2:「手術しても良くならなかったら?」
多くの患者さんが「手術して良かった」と答えています。
一方で、「あまり変わらなかった」「期待したほどではなかった」と感じる方もいます。
完璧な治療ではありません。それでも、保存療法で改善しなかった方にとって、試す価値のある治療法だと思います。
満足度を左右するのは、何を期待するかです。「手術で100%元通り」ではなく、「痛みが軽くなり、歩ける距離が伸びる」を目標にする方の満足度は非常に高いです。(現実的な期待については第14回で詳しくお話しします。)
不安3:「麻酔が怖い」
全身麻酔の安全性は、ここ数十年で飛躍的に向上しました。
手術中は麻酔科専門医が付きっきりで、血圧、心拍、酸素濃度、呼吸をすべて監視しています。何か異常があれば、すぐに対応できます。
手術前に麻酔科医の診察がありますので、持病や普段飲んでいる薬について必ずお伝えください。心臓や肺に持病がある方でも、適切な管理のもとで安全に手術を受けられることがほとんどです。
最近は、局所麻酔で行える低侵襲手術(内視鏡手術など)も増えてきています。手術方法については第9回で詳しくお伝えします。
不安4:「回復に時間がかかるのでは?」
思っているほど長くはないかもしれません。
多くの方が驚かれますが、手術の翌日から歩き始めるのが一般的です。入院期間は1〜2週間。デスクワークへの復帰は2〜3週間後から可能です。
ただし、完全な回復には3〜6ヶ月かかります。この期間のリハビリがとても大切です(第16回で詳しくお話しします)。
不安5:「家族に迷惑をかけたくない」
この不安は、日本の患者さんに特に多く見られます。
考えていただきたいことがあります。手術を受けずに症状が悪化した場合、歩行がさらに困難になり、外出ができなくなり、最終的にはご家族の介護が必要になる可能性があります。
短期間の入院と回復期間に協力をお願いすることと、長年にわたる介護。長い目で見て、どちらがご家族にとって大きな負担でしょうか。
もちろん、手術はご本人の意思で決めるものです。ただ、「家族に迷惑をかけたくないから手術しない」という判断が、結果的にご家族の負担を増やしてしまうこともあるということを、心に留めておいていただければと思います。
「怖いから手術しない」と「理解した上で手術しない」は違う
手術を受けないという判断も、もちろん正しい選択肢の一つです。
ただ、怖いからという理由だけで手術を避けるのと、リスクと効果を理解したうえで自分には合わないと判断するのとでは、意味が違います。前者は恐怖に基づく判断、後者は知識に基づく判断です。
この連載では、手術を「すべきだ」とも「すべきでない」とも言いません。判断に必要な情報をお伝えしたいと思っています。
不安を主治医に伝えてください
不安に感じていることは、遠慮なく主治医に伝えてください。
「こんなことを聞いたら変に思われるかな」「先生は忙しそうだから」と遠慮する必要はまったくありません。
患者さんの不安に答えることは、私たち医師の仕事の一部です。むしろ、不安を隠されてしまうと、適切なサポートができません。
聞きたいことをメモにして持ってきていただくのも良い方法です。ご家族と一緒に聞いていただくのもよいと思います。
まとめ
- 手術への不安は、多くの患者さんが感じる自然な反応
- 腰椎手術で完全な麻痺が起きることはまれ
- 多くの方が手術に満足している
- 全身麻酔の安全性は飛躍的に向上している
- 不安は弱さではなく、自分の体を真剣に考えている証拠
- 恐怖ではなく、知識に基づいて判断を