「手術が怖い」— その不安、当然です

87%の患者さんが手術前に不安を感じます。あなただけではありません。


ここからPhase 2「向き合う」に入ります。これまで6回にわたって、脊柱管狭窄症のしくみ、症状、検査、保存療法についてお伝えしてきました。

今回からは、多くの方が不安に感じている**「手術」**について、正面からお話ししていきます。

自宅で、不安な面持ちの夫にそっと寄り添う妻 不安を感じるのは、自然なことです。一人で抱え込まないでください。


不安は「弱さ」ではありません

「手術と聞いただけで、体がこわばります」

「家族に相談されて、ネットで調べたら怖くなりました」

「テレビで手術の失敗例を見て、踏み切れません」

こうしたお気持ちは、外来で毎日のように耳にします。

研究によると、手術を控えた患者さんの87%が不安を感じているとされています。つまり、不安を感じないほうが珍しいのです。

手術への不安は、「弱いから」「臆病だから」感じるのではありません。大切な自分の体のことを真剣に考えている証拠です。


患者さんが抱える「5つの不安」

外来やアンケートで寄せられる不安を整理すると、大きく5つに分けられます。一つずつ、正直にお答えしていきます。

不安1:「麻痺にならないか?」

これが最も多い不安です。

正直な答え: 腰椎(腰の部分)の手術で、完全な麻痺が起きる確率は0.5%未満——1,000人に5人以下です。

なぜここまで低いかというと、現代の手術では術中神経モニタリング(手術中に神経の状態をリアルタイムで監視する装置)を使用するのが一般的だからです。万が一、神経に影響が出そうな操作があれば、即座にわかります。

また、腰椎の手術では脊髄(せきずい)そのものを操作するわけではありません。腰椎の高さでは脊髄はすでに終わっており、**馬尾神経(ばびしんけい)**という、比較的回復力のある神経の束に対する手術です。

ゼロとは言いません。 しかし、交通事故に遭う確率よりもはるかに低い数字です。

不安2:「手術しても良くならなかったら?」

正直な答え:70〜80%の患者さんが「手術して良かった」と回答しています。

一方で、約15%は「あまり変わらなかった」、5〜10%は「期待したほどではなかった」と感じています。

これは決して完璧な数字ではありません。でも、保存療法で改善しなかった方にとって、10人中7〜8人が改善する治療法は、試す価値があるのではないでしょうか。

大切なのは期待値の設定です。 「手術で100%元通り」ではなく、「痛みが軽くなり、歩ける距離が伸びる」——この目標を持つ方の満足度は非常に高いです。(現実的な期待については第14回で詳しくお話しします。)

不安3:「麻酔が怖い」

正直な答え: 全身麻酔の安全性は、ここ数十年で飛躍的に向上しました。

手術中は麻酔科専門医が付きっきりで、血圧、心拍、酸素濃度、呼吸をすべて監視しています。何か異常があれば即座に対応できる体制です。

手術前に麻酔科医の診察がありますので、持病や普段飲んでいる薬について必ずお伝えください。心臓や肺に持病がある方でも、適切な管理のもとで安全に手術を受けられることがほとんどです。

また、最近では局所麻酔で行える低侵襲手術(内視鏡手術など)も増えてきています。手術方法については第9回で詳しくお伝えします。

不安4:「回復に時間がかかるのでは?」

正直な答え: 思っているほど長くはないかもしれません。

多くの方が驚かれるのですが、手術の翌日から歩行を開始するのが一般的です。入院期間は1〜2週間。デスクワークへの復帰は2〜3週間後から可能です。

ただし、完全な回復には3〜6ヶ月かかります。この期間のリハビリがとても大切です(第16回で詳しくお話しします)。

不安5:「家族に迷惑をかけたくない」

この不安は、日本の患者さんに特に多く見られます。

考えていただきたいこと: 手術を受けずに症状が悪化した場合、歩行がさらに困難になり、外出ができなくなり、最終的にはご家族の介護が必要になる可能性があります。

短期間の入院と回復期間に協力をお願いすることと、長年にわたる介護の負担——長い目で見ると、どちらがご家族にとって大きな負担でしょうか。

もちろん、手術はご本人の意思で決めるものです。ただ、「家族に迷惑をかけたくないから手術しない」という判断が、結果的にご家族の負担を増やしてしまうこともあるということを、心に留めておいていただければと思います。


「怖いから手術しない」と「理解した上で手術しない」は違う

ここで最も大切なことをお伝えします。

手術を受けないという判断は、もちろんあります。それは正しい選択肢の一つです。

ただし、「怖いから」という理由だけで手術を避けるのと、「リスクと効果を正しく理解した上で」自分に合わないと判断するのとでは、まったく意味が違います。

前者は恐怖に基づく判断、後者は知識に基づく判断です。

この連載では、手術について「すべきだ」「すべきでない」とは言いません。ただ、正しい判断ができるだけの情報をお伝えしたいと思っています。


不安を主治医に伝えてください

不安に感じていることは、遠慮なく主治医に伝えてください。

「こんなことを聞いたら変に思われるかな」「先生は忙しそうだから」——そう思う必要はまったくありません。

患者さんの不安に答えることは、私たち医師の仕事の一部です。むしろ、不安を隠されてしまうと、適切なサポートができません。

聞きたいことをメモにして持参するのも良い方法です。ご家族と一緒に聞くのも大切です。


まとめ

  • 手術への不安は87%の患者さんが感じる自然な反応
  • 腰椎手術での完全麻痺リスクは0.5%未満
  • 70〜80%の方が手術に満足している
  • 全身麻酔の安全性は飛躍的に向上している
  • 不安は「弱さ」ではなく、大切に考えている証拠
  • 恐怖による判断ではなく、知識に基づく判断