「手術前に知っておきたいこと」— 準備と心構え

準備ができるほど、手術への不安は小さくなります。


前回は、手術の種類(除圧術・固定術・内視鏡手術)についてお話ししました。今回は、手術を受けると決めてから当日までに知っておきたいこと——体の準備、生活の準備、お金の準備、心の準備をお伝えします。

入院の荷物を落ち着いて準備する年配の男性 準備が整うほど、不安は小さくなっていきます。


体の準備:「術前リハビリ」のすすめ

手術前の体力が、術後の回復を大きく左右します。

できる範囲で体を動かす

手術が決まったら、可能な範囲で体力をつけておくことが大切です。

  • ウォーキング: 痛みが出る手前の距離を毎日歩く
  • 体幹トレーニング: 腹筋・背筋の軽い運動(主治医やリハビリの先生に相談)
  • 呼吸練習: 深呼吸を意識する(全身麻酔後の肺の回復に役立つ)

禁煙は必須

喫煙されている方は、手術の少なくとも4週間前から禁煙してください。

  • タバコは骨の治りを悪くする(特に固定術の場合、骨がくっつきにくくなる)
  • 傷の治りも遅くなる
  • 術後の肺炎リスクが上がる
  • 禁煙補助薬もあります。主治医にご相談ください

生活の準備:帰宅後を想像する

入院中は病院のスタッフが助けてくれますが、退院後は自宅での生活になります。入院前に準備しておくと安心です。

自宅の環境整備

  • 高い場所の荷物を下ろしておく(術後は腕を上に伸ばす動作がつらい)
  • 床の物を片付ける(つまずき防止)
  • 手すりの設置を検討(トイレ、浴室、玄関)→ 介護保険の住宅改修助成も利用可能
  • 寝具の確認: 布団よりベッドの方が起き上がりが楽

入院中に必要なもの

必需品 理由
前開きのパジャマ 着替えが楽
歩きやすい靴(かかとのある室内履き) スリッパは転倒リスク
長めの靴べら 腰を曲げずに靴が履ける
S字フック・小さいバッグ ベッドサイドの整理に便利
暇つぶしの本やタブレット 回復を待つ時間は長い
お薬手帳 入院時に必ず確認される

家族への相談

退院直後の2〜4週間は、日常の家事や買い物に助けが必要になります。

  • 食事の準備(冷凍食品のストック、配食サービスの検討)
  • 買い物(ネットスーパーの登録)
  • 通院の送迎(公共交通機関は術後しばらくつらい)

一人暮らしの方は、退院後の支援体制について入院前にソーシャルワーカーに相談しておくと良いでしょう。


仕事の調整

仕事復帰の目安は、手術の種類と仕事内容によって異なります。

仕事の種類 除圧術 固定術
デスクワーク 2〜3週間 4〜6週間
軽い立ち仕事 3〜4週間 6〜8週間
体を使う仕事 2〜3ヶ月 3〜6ヶ月
重労働 3ヶ月以上 6ヶ月以上

あくまで目安です。個人差がありますので、具体的には主治医にご確認ください。

職場への連絡は早めに。傷病手当金(健康保険)の制度もありますので、会社の総務部や社会保険事務所に確認しておきましょう。


お金の準備:思ったより安くなる制度がある

手術費用が心配な方は多いですが、日本には手厚い制度があります。

手術費用の目安(自己負担3割の場合)

術式 総医療費 3割負担(概算)
除圧術(1椎間) 約80〜120万円 約25〜40万円
固定術(1〜2椎間) 約200〜280万円 約60〜85万円
内視鏡手術 約70〜120万円 約20〜40万円

高額療養費制度:実質負担はもっと少ない

高額療養費制度とは、1ヶ月の医療費が一定額を超えた場合に、超えた分が後で戻ってくる制度です。

年収の目安 月の自己負担上限(概算)
〜約370万円 約57,600円
約370〜770万円 約80,100円+α
約770〜1,160万円 約167,400円+α

つまり、200万円の手術でも、月の自己負担は6〜8万円程度で済む場合があります。

限度額適用認定証を事前に取得しよう

通常の高額療養費制度は、いったん窓口で3割負担を払い、後から差額が戻ってきます。

しかし、限度額適用認定証を事前に申請しておくと、窓口での支払い自体が上限額までになります。

申請先: お住まいの市区町村(国民健康保険)または健康保険組合 申請のタイミング: 手術が決まったらすぐに

その他の制度

  • 医療費控除(確定申告): 年間10万円超の医療費は所得控除の対象
  • 傷病手当金: 会社員の場合、休業中の給与の約2/3が支給(最長1年6ヶ月)
  • 身体障害者手帳: 歩行障害の程度によっては申請可能な場合も

心の準備:不安は「知ること」で和らぐ

ここまで読んで、「やること多いな…」と感じたかもしれません。

でも、一つずつ準備を進めていくと、不安が「やるべきことリスト」に変わります。漠然とした不安よりも、具体的なタスクの方がずっと対処しやすいものです。

手術前にやっておくことリスト

  • 禁煙開始(4週間前〜)
  • 体力づくり(できる範囲で)
  • 限度額適用認定証の申請
  • 入院グッズの準備
  • 自宅の環境整備
  • 家族・職場への連絡
  • 退院後の生活サポートの確認
  • 主治医への最後の質問(前回の「5つの質問」)

一番大切なこと

わからないことを、わからないままにしない。

手術の前に感じる不安は、多くの場合「情報の不足」から来ています。主治医に遠慮せず質問してください。看護師さんにも何でも聞いてください。病院の相談窓口(医療ソーシャルワーカー)も頼れる存在です。

あなたが安心して手術を迎えられるよう、医療チーム全体があなたをサポートします。


まとめ

  • 体の準備: 体力づくりと禁煙が、術後の回復を左右する
  • 生活の準備: 自宅の環境整備、入院グッズ、退院後のサポート体制
  • 仕事の調整: 復帰時期の目安を知り、早めに職場に連絡
  • お金の準備: 高額療養費制度で実質負担は大幅に軽減。限度額適用認定証を事前申請
  • 心の準備: 不安を「タスク」に変える。わからないことは何でも聞く