「手術しても痛みが残る場合」— 諦めないでください
手術後の痛みは「失敗」ではありません。次のステップがあります。
ここまでの連載で、脊柱管狭窄症の理解から手術、回復、予防まで一通りお話ししてきました。
今回からは、一部の方が直面する**「手術後も痛みが残る」**という状況について、正直にお話しします。
痛みが残っても、まだできることがあります。一緒に次の一歩を。
手術後に痛みやしびれが残ることはある
まず、大切な事実をお伝えします。
手術後に何らかの残存症状がある方は、珍しくありません。
第14回でお話しした通り、手術後の満足度は70〜80%です。つまり、20〜30%の方は何らかの形で症状が残っていることになります。
ただし、「残存症状がある」=「手術が失敗した」ではありません。
残存症状の種類
術後に残る症状は、程度によって大きく3つに分かれます。
軽度:日常生活に大きな支障なし
- 時々のしびれ(特に疲れたときや天候の変化時)
- 長く歩くと少し足が重くなる(でも術前よりずっとまし)
- 完全にゼロではないが、「あるけど気にならない」程度
→ 経過観察+必要に応じて薬でコントロール
多くの患者さんはこのカテゴリーに入ります。完璧ではなくても、「手術前よりずっと良い」状態です。
中等度:改善はしたが持続的な不快感がある
- 歩行には支障ないが、持続的な足のしびれ
- 座っていると腰や足が痛くなる
- 薬を飲み続けている
→ 治療の見直し(薬の調整、リハビリの再開・強化、追加的な治療の検討)
重度:日常生活に支障がある
- 歩行距離が十分に伸びない
- 強い痛みが持続している
- 生活の質が大きく低下している
→ 積極的な精密検査と治療介入が必要
「手術が失敗した」わけではない理由
術後に痛みが残る場合、いくつかの原因が考えられます。
1. 長年の神経圧迫による不可逆的変化
長期間神経が圧迫されていた場合、圧迫を解除しても神経が完全には回復しないことがあります。
- 神経線維自体が傷ついている
- 圧迫されていた期間が長いほど、回復は難しい
- これが「我慢しすぎる前に手術を検討した方が良い」理由です
2. 狭窄症以外の痛みの原因が重なっている
脊柱管狭窄症だけが痛みの原因ではないことがあります。
- 椎間関節の痛み(背骨の関節の問題)
- 筋筋膜性疼痛(筋肉のこりやトリガーポイント)
- 仙腸関節の問題(骨盤の関節)
- 末梢神経障害(糖尿病性など)
これらは脊柱管の除圧では改善しません。別々の治療が必要です。
3. 中枢性感作
長期間痛みが続くと、神経系自体が痛みに過敏になることがあります。
- 本来の原因が解消されても、脳と脊髄が「痛み信号」を出し続ける
- いわば、「火災報知器が壊れて、火が消えた後も鳴り続けている」状態
- これは精神的な問題ではなく、神経の機能的な変化です
4. 除圧が不十分だった場合
まれに、神経の圧迫が十分に解除されていないことがあります。
- 画像検査で確認できる
- 必要に応じて追加手術の検討
まず主治医に相談すること
術後に痛みが残っている場合、以下の手順で対応します。
ステップ1:主治医への相談
「手術したのにまだ痛い」と伝えてください。遠慮は不要です。
ステップ2:画像検査
MRIやCTで以下を確認します。
- 除圧は十分か?
- 新たな圧迫はないか?
- 固定術の場合、インプラントに問題はないか?
ステップ3:治療の見直し
| 対応 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 薬の調整 | 神経障害性疼痛の薬(リリカ、タリージェ、サインバルタなど) |
| リハビリの強化 | 筋力トレーニング、ストレッチの見直し |
| 追加のブロック注射 | 残存する圧迫部位の特定と治療 |
| 心理的サポート | 慢性痛は精神面にも影響する |
ステップ4:専門家への紹介
整形外科での対応で十分な改善が得られない場合は、**痛みの専門家(ペインクリニック)**への紹介を依頼できます。
「もう何もできない」ということはない
ここで一番お伝えしたいことです。
手術後の痛みに対して、まだ選択肢はあります。
- 薬の種類はたくさんある → 合うものを見つけるまで試行錯誤が必要なこともある
- リハビリのアプローチも多様 → 方法を変えることで改善することがある
- 追加の治療法(ブロック注射、神経調節療法など)が存在する
- 痛みの専門外来という選択肢がある
一人で悩まないでください。 主治医に伝え、必要に応じて別の専門家の力も借りましょう。
痛みと上手に付き合うという選択
「完全にゼロにならないなら意味がない」——そう感じるかもしれません。
でも、慢性的な痛みの治療においては、「痛みをゼロにする」ことが唯一のゴールではありません。
- 痛みがあっても、やりたいことができる
- 痛みが減り、薬の量を減らせる
- 痛みへの不安が減り、心の余裕ができる
これらもすべて、立派な改善です。
「痛みとうまく付き合う」は諦めではありません。積極的に生活の質を上げる戦略です。
まとめ
- 手術後に何らかの残存症状がある方は珍しくない
- 残存症状 ≠ 手術の失敗。原因は複数ある
- まずは主治医に相談 → 画像検査 → 治療の見直し
- 「もう何もできない」ということはない — 選択肢は残っている
- 痛みの専門家(ペインクリニック)という選択肢がある
- 痛みと上手に付き合うことも、立派な戦略