「FBSS(腰椎術後疼痛症候群)とは」— 知っておくべきこと

手術後の持続的な痛みには名前があり、治療法があります。


前回は、手術後に痛みが残る場合の原因と対応についてお話ししました。今回は、その中でも特に**「手術後も痛みが続く状態」**に焦点をあて、医学的な名前と治療法をお伝えします。

患者さんの話にじっくり耳を傾け、共感する医師 その痛みには名前があり、向き合う方法があります。


FBSS / PSPS とは

名前を知ることの意味

手術後の持続的な痛みには、医学的な名前がついています。

  • FBSS: Failed Back Surgery Syndrome(フェイルド・バック・サージェリー・シンドローム)
  • 日本語では**「腰椎術後疼痛症候群」**

最近では、より適切な名称として:

  • PSPS: Persistent Spinal Pain Syndrome(持続性脊椎疼痛症候群)

が使われ始めています。

「Failed」という言葉に惑わされないで

FBSSの「Failed(失敗した)」という言葉は、大きな誤解を生む原因になっています。

FBSSは「手術が失敗した」という意味ではありません。

この名前は50年以上前につけられたもので、現代の理解とは合わない不適切な名称です。だからこそ、最近は**PSPS(持続性脊椎疼痛症候群)**という名前が推奨されています。

FBSSは「手術した後にも痛みが残っている状態」の総称にすぎません。手術自体は正しく行われていたとしても、さまざまな理由で痛みが残ることがあるのです。


どのくらいの頻度で起きるか

腰椎手術後にFBSS/PSPSと診断される方は:

  • 手術を受けた患者さんの約5〜27%(定義や調査方法によって幅がある)
  • 日本での調査では約10〜20%程度と報告されています

FBSSの原因

FBSSの原因は一つではなく、複数の要因が重なっていることがほとんどです。

構造的な原因

原因 説明
不十分な除圧 神経の圧迫が完全に解除されていない
再狭窄 手術した場所が再び狭くなった
隣接椎間障害 固定術の上下に新たな問題が発生
瘢痕組織 手術後にできた傷跡の組織が神経に影響
インプラントの問題 ネジの緩み、位置のずれ

神経学的な原因

原因 説明
神経の不可逆的ダメージ 長期圧迫で神経自体が傷んでいた
中枢性感作 脳・脊髄の痛み処理システムが過敏になっている
末梢神経の変性 糖尿病など他の疾患との合併

心理社会的な要因

原因 説明
うつ・不安 慢性痛はうつを引き起こし、うつは痛みを増幅させる
カタストロフィジング 痛みを過剰に脅威として捉えてしまう思考パターン
社会的孤立 痛みで活動が制限され、人との交流が減少
睡眠障害 痛みで眠れない → 疲労 → 痛みの閾値が下がる

これらの心理的要因は「気のせい」ではありません。 脳の機能として、心理状態は痛みの感じ方に直接影響します。


FBSSの治療法

FBSSの治療は、原因に合わせた多角的なアプローチが必要です。

1. 薬物療法

薬の種類 目的
プレガバリン(リリカ) 神経障害性疼痛の第一選択薬
ミロガバリン(タリージェ) リリカと同系統。日本で開発
デュロキセチン(サインバルタ) 抗うつ薬だが、痛みの抑制にも効果
トラマドール 中等度の鎮痛薬。慎重に使用
ノイロトロピン 日本で広く使われる鎮痛薬

複数の薬を組み合わせることで、より良い効果が得られることがあります。「一つの薬が効かなかった」からといって、すべてが効かないわけではありません。

2. リハビリテーション

  • 痛みがあってもできる範囲で体を動かすことが大切
  • 「痛い → 動かない → 筋力低下 → さらに痛い」の悪循環を断ち切る
  • 理学療法士の指導のもと、段階的に

3. 心理的サポート

  • 認知行動療法: 痛みに対する考え方や行動パターンを変える
  • マインドフルネス: 痛みとの向き合い方を変える
  • 精神科・心療内科との連携
  • これは「心の問題」として片付けるためではなく、科学的に効果が証明された治療法です

4. 神経ブロック

  • 残存する痛みの原因部位を特定し、局所的に治療
  • 硬膜外ブロック、神経根ブロック、仙腸関節ブロックなど

5. ニューロモデュレーション(神経調節療法)

従来の治療で十分な効果が得られない場合の選択肢:

  • 脊髄刺激療法(SCS): 脊髄に微弱な電気刺激を送り、痛みを和らげる
  • 薬や注射と異なるメカニズムで痛みにアプローチ
  • お試し期間(トライアル)があり、効果を確認してから本格導入できる

→ SCSについては、次々回(第22回)で詳しくお話しします。

6. 再手術

  • 構造的な問題(再狭窄、インプラント不良など)が明らかな場合
  • ただし、再手術の成績は初回より低くなる傾向 → 慎重な判断が必要
  • 再手術の適応は限定的

大切なのは「一人で抱え込まない」こと

FBSSの治療で最も大切なのは、一人で悩み続けないことです。

  • 「手術までしてもらったのに、まだ痛いなんて言えない」→ 言ってください
  • 「先生に申し訳ない」→ 痛みを伝えることは、先生の仕事を助けることです
  • 「もうどうしようもないんだろう」→ まだ選択肢は残っています

あなたにできる第一歩

  1. 今の痛みの状態を主治医に正直に伝える
  2. 必要に応じてペインクリニック(痛みの専門外来)の紹介を依頼する
  3. 痛みの日記をつける(いつ、どこが、どのくらい痛いか)

まとめ

  • FBSS/PSPS: 腰椎手術後に痛みが持続する状態の総称。「手術の失敗」ではない
  • 手術後の5〜27%に見られる
  • 原因は構造的・神経学的・心理社会的要因が複合
  • 治療法は多角的:薬、リハビリ、心理サポート、ブロック、SCS、再手術
  • 一人で抱え込まない → まず主治医に相談
  • **痛みの専門家(ペインクリニック)**という選択肢がある