「痛みの専門家」— ペインクリニックと多職種アプローチ
慢性の痛みには、痛みを専門に診る外来と、職種の違う専門家が組むチームがあります。
前回は、FBSS(腰椎術後疼痛症候群)について、その名前と原因、治療の概要をお伝えしました。今回は、痛みの治療を専門とするペインクリニックと、複数の職種がチームで治療にあたる多職種アプローチについてです。
慢性の痛みは、チームで治療することが増えています。
ペインクリニックとは
「痛みの専門外来」
ペインクリニックは、文字通り「痛み(Pain)の診療所(Clinic)」です。整形外科が骨や関節の構造的な問題を治療するのに対し、ペインクリニックは痛みそのものを専門に治療します。
どんな医師がいるか
ペインクリニックの医師の多くは麻酔科の出身です。麻酔科医は手術中の痛みを管理するのが仕事で、その技術を慢性痛の治療に応用しています。
- 日本ペインクリニック学会の専門医制度がある
- 学会員は全国に約4,600名、うち専門医は約1,700名(2026年5月時点)
- 大学病院、総合病院、クリニックに在籍
いつ受診を考えるか
- 手術後の痛みが3ヶ月以上続いている
- 整形外科の治療(薬、リハビリ)で十分な改善が得られない
- 痛みが日常生活に支障をきたしている
- 痛みの原因が構造的な問題だけでは説明できない
紹介状がなくても受診できる施設もありますが、今までの経過がわかる紹介状と画像データを持っていくと話が早く進みます。主治医に「ペインクリニックを紹介してほしい」と伝えてください。
慢性痛は「一人の医師」では治しにくい
急性の痛み(骨折、手術後の傷の痛みなど)は、原因を治せば痛みも治まり、一人の医師で対応できることが多いです。
慢性の痛みはそうはいきません。体の問題に、心理的・社会的な要因が重なっています。
痛みの悪循環
[!note] 痛みの悪循環 身体面: 痛み → 動けない → 筋力低下 → さらに痛い
精神面: 不安・うつ → 睡眠障害 → 疲労 → 痛みの閾値低下
社会面: 社会的孤立 → 活動量減少 → 体力低下 → 痛みの増悪
体、気持ち、暮らしの三方向から悪循環が回っているので、複数の専門家が連携して治療するチームアプローチが効果的です。
多職種チームの構成
| 専門家 | 役割 |
|---|---|
| 整形外科医 | 構造的な問題の評価と手術の判断 |
| ペインクリニック医 | 痛みの専門的管理。ブロック注射、薬物調整 |
| リハビリテーション科医 | 運動療法の処方と全体的な回復計画 |
| 理学療法士 | 筋力トレーニング、ストレッチ、姿勢指導の実施 |
| 心療内科医/精神科医 | 痛みに伴う不安・うつの治療 |
| 臨床心理士 | 認知行動療法、カウンセリング |
| 看護師 | 日常生活の指導、服薬管理のサポート |
| ソーシャルワーカー | 社会復帰、制度利用の支援 |
すべての専門家が一つの施設にいるとは限りません。施設をまたいでも、連携して治療にあたれる体制があれば十分です。
ペインクリニックでの治療
神経ブロック
ペインクリニックの代表的な治療法です。
| ブロックの種類 | 対象 |
|---|---|
| 硬膜外ブロック | 脊柱管内の炎症と痛み |
| 神経根ブロック | 特定の神経根の痛み |
| 仙腸関節ブロック | 骨盤の関節に由来する痛み |
| 椎間関節ブロック | 背骨の関節に由来する痛み |
| トリガーポイント注射 | 筋肉のこりに由来する痛み |
ブロック注射は治療であると同時に、診断にも使えます。どこに注射すると痛みが楽になるかで、痛みの原因部位を絞り込めます。
薬物療法の最適化
ペインクリニックでは、痛みの種類に合わせて、より細かく薬を調整できます。
- 侵害受容性疼痛(炎症による痛み)→ NSAIDs、アセトアミノフェン
- 神経障害性疼痛(神経の傷による痛み)→ プレガバリン、ミロガバリン、デュロキセチン
- 混合型(多くの慢性痛はこれ)→ 複数の薬の組み合わせ
これまで薬で楽にならなかったのは、痛みの種類と薬が合っていなかったからかもしれません。
認知行動療法(CBT)
痛みに対する考え方や行動のくせを変えて、痛みの感じ方やつらさを軽くする方法です。
- 「痛みがあるから何もできない」→「痛みがあっても、これならできる」
- 「この痛みは一生続く」→「今日は昨日より少し楽だ」
- 「誰もわかってくれない」→「専門家と一緒に取り組んでいる」
気の持ちようの話ではなく、脳が痛みを処理する仕方に働きかける治療で、研究で効果が確かめられています。
運動療法
ペインクリニックでも、適度な運動は治療の一部です。
- 痛みがあっても安全に行える運動を、理学療法士と一緒に見つける
- 「痛いから動かない」の悪循環を断ち切る
- グラデッドエクササイズ(段階的に運動量を増やす方法)
「痛みとうまく付き合う」は諦めではない
「痛みとうまく付き合いましょう」と言われると、もう治してもらえないのかと感じるかもしれません。慢性痛の治療で「付き合う」というのは、あきらめることではなく、自分から手を打つ方法のひとつです。
Active Coping(積極的な対処)
| 消極的な対処 | 積極的な対処 |
|---|---|
| 痛みがあるから何もしない | 痛みがあってもできることをする |
| 一日中横になっている | 痛みの少ない時間帯に散歩する |
| 人と会うのを避ける | 趣味のグループに参加する |
| 「もうダメだ」と思う | 「今日はここまでできた」と記録する |
研究では、痛みの強さが同じでも、Active Copingを実践している人のほうが生活の質が高いことがわかっています。
今の慢性痛治療は、痛みを完全になくすことだけでなく、痛みがあっても充実した生活を送れるようになることを目標にしています。
新しい治療技術
これまでの治療で十分な効果が得られない場合、新しい技術も選択肢に入ります。次回(第22回)は、そのひとつである脊髄刺激療法(SCS)について詳しくお話しします。
SCSには、次のような特徴があります。
- 薬や注射とはまったく違う仕組みで痛みに働きかける
- 合わなければ機器を取り出して、元に戻せる
- 近年、技術の進歩が大きい
痛みの日記をつけましょう
ペインクリニックを受診するときは、痛みの日記があるととても役立ちます。
| 記録する項目 | 例 |
|---|---|
| 日付・時間 | 3月5日 午前中 |
| 痛みの強さ(0-10) | 6/10 |
| 痛みの場所 | 左ふくらはぎ |
| どんな痛みか | ジンジンするしびれ |
| きっかけ | 30分歩いた後 |
| 楽になった方法 | 10分座って休んだ |
| 飲んだ薬 | リリカ75mg |
| その日の活動量 | 買い物に行った、洗濯した |
| 気分 | まあまあ |
1週間分あれば、専門医は痛みのパターンを読み取ることができます。
まとめ
- ペインクリニックは痛みを専門に治療する外来で、麻酔科医が多い
- 慢性痛の治療には多職種チームが効果的
- 治療法は、ブロック注射、薬物調整、認知行動療法、運動療法
- 「痛みと付き合う」は、あきらめではなく自分から手を打つこと
- Active Copingで生活の質を上げられる
- 痛みの日記をつけておくと、専門医の治療に役立つ
もっと詳しく知りたい方へ
- ブロック注射(動画あり)
- 誰に診てもらう?(動画あり)
- 痛み止めが効きにくくなったら(動画あり)