「痛みの専門家」— ペインクリニックと多職種アプローチ
痛みの治療は進化しています。あなたに合った専門家がいます。
前回は、FBSS(腰椎術後疼痛症候群)について、その名前と原因、治療の概要をお伝えしました。今回は、痛みの治療を専門とするペインクリニックと、チームで痛みに向き合う多職種アプローチについてお話しします。
痛みには、チームで向き合う時代になりました。
ペインクリニックとは
「痛みの専門外来」
ペインクリニックは、文字通り**「痛み(Pain)の診療所(Clinic)」**です。
整形外科が「骨や関節の構造的な問題」を治療するのに対し、ペインクリニックは**「痛みそのもの」を専門的に治療**します。
どんな医師がいるか
ペインクリニックの医師の多くは、麻酔科出身です。
なぜ麻酔科か? 麻酔科医は「痛みを取る」ことのプロフェッショナルです。手術中の痛みを管理する技術を、慢性痛の治療に応用しています。
- 日本ペインクリニック学会の専門医制度がある
- 全国に約1,500名以上の学会員
- 大学病院、総合病院、クリニックに在籍
いつ受診を考えるか
- 手術後の痛みが3ヶ月以上続いている
- 整形外科の治療(薬、リハビリ)で十分な改善が得られない
- 痛みが日常生活に支障をきたしている
- 痛みの原因が構造的な問題だけでは説明できない
紹介状がなくても受診できる施設もありますが、今までの経過がわかる紹介状と画像データを持参する方がスムーズです。主治医に「ペインクリニックを紹介してほしい」と伝えてください。
慢性痛は「一人の医師」では治しにくい
ここが、急性の痛みと慢性の痛みの大きな違いです。
急性の痛み(骨折、手術後の傷の痛みなど)は、原因を治せば痛みも治ります。一人の医師で対応できることが多い。
しかし慢性の痛みは、体の問題だけでなく、心理的・社会的な要因が複雑に絡み合っています。
痛みの悪循環
[!note] 痛みの悪循環 身体面: 痛み → 動けない → 筋力低下 → さらに痛い
精神面: 不安・うつ → 睡眠障害 → 疲労 → 痛みの閾値低下
社会面: 社会的孤立 → 活動量減少 → 体力低下 → 痛みの増悪
この悪循環を断ち切るには、複数の専門家が連携するチームアプローチが効果的です。
多職種チームの構成
| 専門家 | 役割 |
|---|---|
| 整形外科医 | 構造的な問題の評価と手術の判断 |
| ペインクリニック医 | 痛みの専門的管理。ブロック注射、薬物調整 |
| リハビリテーション科医 | 運動療法の処方と全体的な回復計画 |
| 理学療法士 | 筋力トレーニング、ストレッチ、姿勢指導の実施 |
| 心療内科医/精神科医 | 痛みに伴う不安・うつの治療 |
| 臨床心理士 | 認知行動療法、カウンセリング |
| 看護師 | 日常生活の指導、服薬管理のサポート |
| ソーシャルワーカー | 社会復帰、制度利用の支援 |
すべての専門家が一つの施設にいるとは限りませんが、連携して治療にあたる体制を取ることが大切です。
ペインクリニックでの治療
神経ブロック
ペインクリニックの代表的な治療法です。
| ブロックの種類 | 対象 |
|---|---|
| 硬膜外ブロック | 脊柱管内の炎症と痛み |
| 神経根ブロック | 特定の神経根の痛み |
| 仙腸関節ブロック | 骨盤の関節に由来する痛み |
| 椎間関節ブロック | 背骨の関節に由来する痛み |
| トリガーポイント注射 | 筋肉のこりに由来する痛み |
ブロック注射は治療と同時に診断の役割も果たします。「どこの注射で痛みが楽になるか」で、痛みの原因部位を特定できます。
薬物療法の最適化
ペインクリニックでは、痛みの種類に合わせたより専門的な薬物調整が可能です。
- 侵害受容性疼痛(炎症による痛み)→ NSAIDs、アセトアミノフェン
- 神経障害性疼痛(神経の傷による痛み)→ プレガバリン、ミロガバリン、デュロキセチン
- 混合型(多くの慢性痛はこれ)→ 複数の薬の組み合わせ
「今まで効かなかった」のは、薬が合っていなかっただけかもしれません。
認知行動療法(CBT)
痛みに対する考え方や行動パターンを変えることで、痛みの体験を改善する方法です。
- 「痛みがあるから何もできない」 → 「痛みがあっても、これならできる」
- 「この痛みは一生続く」 → 「今日は昨日より少し楽だ」
- 「誰もわかってくれない」 → 「専門家と一緒に取り組んでいる」
これは「気の持ちよう」の話ではありません。脳の痛み処理の仕方を実際に変える、科学的に効果が証明された治療法です。
運動療法
ペインクリニックでも、適度な運動は重要な治療の一部です。
- 痛みがあっても安全に行える運動を、理学療法士と一緒に見つける
- 「痛いから動かない」の悪循環を断ち切る
- グラデッドエクササイズ(段階的に運動量を増やす方法)
「痛みとうまく付き合う」は諦めではない
ここで改めてお伝えしたいことがあります。
「痛みとうまく付き合いましょう」と言われると、「もう治してもらえないのか」と感じるかもしれません。
しかし、慢性痛の管理において、「付き合う」は諦めではなく、積極的な戦略です。
Active Coping(積極的な対処)
| 消極的な対処 | 積極的な対処 |
|---|---|
| 痛みがあるから何もしない | 痛みがあってもできることをする |
| 一日中横になっている | 痛みの少ない時間帯に散歩する |
| 人と会うのを避ける | 趣味のグループに参加する |
| 「もうダメだ」と思う | 「今日はここまでできた」と記録する |
研究でわかっていることは:
痛みの強さが同じでも、Active Copingを実践している人の方が、生活の質が高い。
痛みの完全な消失を目指すだけでなく、痛みがあっても充実した生活を送る力を育てることが、現代の慢性痛治療のゴールです。
新しい治療技術
従来の治療で十分な効果が得られない場合、新しい技術も選択肢に入ります。
次回(第22回)では、その中でも特に注目されている**脊髄刺激療法(SCS)**について詳しくお話しします。
SCSは:
- 薬や注射とは全く異なるメカニズムで痛みにアプローチ
- **お試し期間(トライアル)**があり、効果を確認できる
- 近年の技術進歩が著しい
痛みの日記をつけましょう
ペインクリニックを受診する際に、痛みの日記があると非常に役立ちます。
| 記録する項目 | 例 |
|---|---|
| 日付・時間 | 3月5日 午前中 |
| 痛みの強さ(0-10) | 6/10 |
| 痛みの場所 | 左ふくらはぎ |
| どんな痛みか | ジンジンするしびれ |
| きっかけ | 30分歩いた後 |
| 楽になった方法 | 10分座って休んだ |
| 飲んだ薬 | リリカ75mg |
| その日の活動量 | 買い物に行った、洗濯した |
| 気分 | まあまあ |
1週間分あれば、専門医は痛みのパターンを読み取ることができます。
まとめ
- ペインクリニック: 痛みを専門的に治療する外来。麻酔科医が多い
- 慢性痛の治療には多職種チームが効果的
- 治療法:ブロック注射、薬物調整、認知行動療法、運動療法
- 「痛みと付き合う」は諦めではなく積極的な戦略
- Active Copingで生活の質を上げることができる
- 痛みの日記をつけると、専門医の治療に役立つ