「脊髄刺激療法(SCS)を知っていますか?」

痛みが残っている方に、新しい選択肢があります。


前回は、ペインクリニックと多職種アプローチについてお話ししました。今回は、従来の治療で十分な効果が得られない場合の選択肢として、脊髄刺激療法(SCS: Spinal Cord Stimulation)を取り上げます。

医師が新しい治療の選択肢についてやさしく希望を語る診察室 つらい痛みに、新しい選択肢という希望があります。


SCS(脊髄刺激療法)とは

基本的なしくみ

SCSは、脊髄の近くに細い電極を留置し、微弱な電気刺激を送ることで痛みを和らげる治療法です。

わかりやすく言うと:

痛みの信号が脳に届く前に、電気の刺激で「門」を閉じるイメージです。

これは「ゲートコントロール理論」と呼ばれる、痛みの伝達に関する科学的な理論に基づいています。

具体的な仕組み

  1. 電極(リード): 髪の毛より少し太い程度の細いワイヤー。脊髄硬膜外腔に留置
  2. 発生器(IPG): 小さな機器(ペースメーカーに似ている)。おしりや腹部の皮下に埋め込む
  3. リモコン: 患者さん自身が刺激の強さを調整できる

電極から出る微弱な電気が脊髄を刺激し、痛みの信号が脳に伝わるのを抑えます。


どんな人が対象か

SCSは、すべての痛みに対して行うものではありません。次のような条件を満たす方が対象になります。

主な適応

  • 腰椎手術後に痛みが残っている(FBSS/PSPS)
  • 保存療法(薬、注射、リハビリ)で十分な効果が得られない
  • 追加の外科手術の適応がない、または手術を希望しない
  • 痛みの原因が神経の問題であること

SCSが特に効果的な痛み

効果的 効果が期待しにくい
足の痛み・しびれ 純粋な腰痛だけの場合
手術後の神経障害性疼痛 骨や関節の構造的な痛み
CRPS(複合性局所疼痛症候群) 精神的な要因が主な痛み
末梢血管障害に伴う痛み 急性の痛み

SCSの特徴:元に戻せる

SCSは、骨を削ったり固定したりせず、合わなければ機器を取り出して元に戻せる治療です。希望があれば、本番の前にトライアル(試験刺激)を行うこともできます。

私は今でも、希望があればトライアルを行っています。ただ、短い期間では効果を判断しにくい方が多いことと、感染のリスクを考えて、最近はリード(電極)とジェネレーター(本体)を一度に植え込むことが多くなっています。

トライアルを行う場合の流れ

  1. 電極の留置(局所麻酔で実施。約30分〜1時間)

    • 電極だけを脊髄硬膜外腔に入れる
    • 外部の機器とつないで刺激を開始
  2. 効果の確認期間(約1週間)

    • 入院して日常生活に近い活動をしながら効果を判定
    • 痛みがどのくらい楽になるか記録
    • 刺激の設定を調整して最適なパターンを探す
  3. 判定

    • 効果あり(痛みが50%以上軽減) → 本植え込みへ進む
    • 効果なし → 電極を抜いて終了。体に何も残らない

合わなければ元に戻せることは、SCSの安心材料のひとつです。

本植え込み

トライアルで効果が確認できたら、本植え込みを行います。

  • 全身麻酔(または局所麻酔)
  • 電極を永久的に固定し、発生器(IPG)を皮下に埋め込む
  • 手術時間:1〜2時間
  • 入院:約1週間

SCSの効果

研究データ

  • 手術後に痛みが残っている方を対象にした研究で、痛みが半分以下に軽くなる方が一定の割合でいることが報告されています(研究によって結果は異なります)
  • 薬の使用量が減少する効果も

患者さんの生活への影響

痛みの軽減に加えて:

  • 歩行距離の改善
  • 睡眠の質の向上(痛みで目が覚めなくなる)
  • 活動量の増加
  • 薬の減量(副作用の軽減)
  • 生活の質(QOL)の向上

知っておきたいリスク

SCSにも、ほかの治療と同じようにリスクがあります。

  • 効果には個人差があります。 痛みが十分に軽くならない方もいます。
  • 機器のトラブルが一定の頻度で起こります。 報告が多い順に、リードの位置ズレ、リードの断線、感染、機器そのものの不良です。再手術や設定の調整で対応します。
  • 植え込みは手術です。 出血や傷の痛みなど、手術に共通するリスクがあります。

合わない場合は、機器を取り出すことができます。


SCSの進化

SCSの技術は近年大きく進歩しています。

従来のSCS

  • 刺激部位にピリピリとした感覚(パレステジア)がある
  • 「痛みの代わりにピリピリ感を感じる」仕組み
  • 体位によって刺激の感じ方が変わることがあった

SCSの技術の変化

最近は、刺激をほとんど感じない方式など、刺激の出し方にいくつかの種類があります。どの方式が合うかは人によって違うので、主治医と相談して選びます。

MRI対応

現在のSCSの機器の多くは、条件つきでMRI検査に対応しています。SCSを植え込んだ後もMRI検査を受けることができます(条件あり)。


よくある質問

Q: 痛みは完全になくなりますか?

A: 完全にゼロになることは少なく、痛みが半分くらいになることを目標にします。効果には個人差があります。

Q: ずっと電気を流し続けるのですか?

A: 基本的に24時間刺激を行いますが、リモコンで自分でON/OFFや強さの調整ができます。入浴時に一時的にOFFにすることもできます。

Q: 電池はどのくらい持ちますか?

A: 充電式のタイプのもちは、機器の種類や、刺激の流し方・強さなどで変わります。非充電式は、刺激の設定などによって電池のもつ期間が大きく変わり、数年で本体の入れ替え手術が必要になることが多いです。

Q: 飛行機に乗れますか?

A: はい、飛行機には乗れます。空港のセキュリティゲートでは、係員にSCSのカードを見せてください。

Q: スポーツはできますか?

A: 多くのスポーツは可能です。ただし、体をひねる激しい運動や接触スポーツは、電極がずれるリスクがあるため控えた方が良い場合があります。

Q: 費用はどのくらいですか?

A: SCSは保険適用です。高額療養費制度の対象にもなりますので、月の自己負担は所得に応じた上限額までとなります(第10回参照)。


SCSは「最後の手段」ではない

以前は「何をやってもダメだった最後の手段」というイメージがありましたが、最近は考え方が変わってきています。

  • 「最後の手段」ではなく、「適切なタイミングでの選択肢の一つ」

SCSについてもっと知りたい方へ

このブログシリーズを掲載しているscs-for-lcs.comには、SCSについてのより詳しい情報があります。

  • SCSの仕組みと種類
  • 治療の流れ
  • よくある質問

興味のある方は、ぜひご覧ください。

また、SCSの適応について相談されたい方は、主治医またはペインクリニックの先生にご相談ください。


まとめ

  • SCS: 脊髄に微弱な電気刺激を送り、痛みを和らげる治療法
  • 対象: 手術後の持続的な痛み、保存療法で改善しないケース
  • 特徴: 不安があれば試してから決められ、合わなければ取り出せる
  • 効果: 痛みを和らげる治療。効果には個人差がある
  • リスク: 機器のトラブル(リードのずれ・断線・感染など)や手術に共通するリスクがある
  • 保険適用: 高額療養費制度の対象
  • 「最後の手段」ではなく、適切なタイミングでの選択肢

もっと詳しく知りたい方へ