「脊髄刺激療法(SCS)を知っていますか?」
痛みが残っている方に、新しい選択肢があります。
前回は、ペインクリニックと多職種アプローチについてお話ししました。今回は、従来の治療で十分な効果が得られない場合の選択肢として、**脊髄刺激療法(SCS: Spinal Cord Stimulation)**について詳しくお伝えします。
つらい痛みに、新しい選択肢という希望があります。
SCS(脊髄刺激療法)とは
基本的なしくみ
SCSは、脊髄の近くに細い電極を留置し、微弱な電気刺激を送ることで痛みを和らげる治療法です。
わかりやすく言うと:
痛みの信号が脳に届く前に、電気の刺激で「門」を閉じるイメージです。
これは「ゲートコントロール理論」と呼ばれる、痛みの伝達に関する科学的な理論に基づいています。
具体的な仕組み
- 電極(リード): 髪の毛より少し太い程度の細いワイヤー。脊髄硬膜外腔に留置
- 発生器(IPG): 小さな機器(ペースメーカーに似ている)。おしりや腹部の皮下に埋め込む
- リモコン: 患者さん自身が刺激の強さを調整できる
電極から出る微弱な電気が脊髄を刺激し、痛みの信号が脳に伝わるのを抑えます。
どんな人が対象か
SCSは、すべての痛みに対して行うものではありません。特定の条件を満たす方が対象になります。
主な適応
- 腰椎手術後に痛みが残っている(FBSS/PSPS)
- 保存療法(薬、注射、リハビリ)で十分な効果が得られない
- 追加の外科手術の適応がない、または手術を希望しない
- 痛みの原因が神経の問題であること
SCSが特に効果的な痛み
| 効果的 | 効果が期待しにくい |
|---|---|
| 足の痛み・しびれ | 純粋な腰痛だけの場合 |
| 手術後の神経障害性疼痛 | 骨や関節の構造的な痛み |
| CRPS(複合性局所疼痛症候群) | 精神的な要因が主な痛み |
| 末梢血管障害に伴う痛み | 急性の痛み |
SCSの最大のメリット:「お試し」ができる
SCSの最も大きな特徴は、トライアル(試験刺激)制度があることです。
トライアルの流れ
電極の留置(局所麻酔で実施。約30分〜1時間)
- 電極だけを脊髄硬膜外腔に入れる
- 外部の機器とつないで刺激を開始
効果の確認期間(約1週間)
- 入院して日常生活に近い活動をしながら効果を判定
- 痛みがどのくらい楽になるか記録
- 刺激の設定を調整して最適なパターンを探す
判定
- 効果あり(痛みが50%以上軽減) → 本植え込みへ進む
- 効果なし → 電極を抜いて終了。体に何も残らない
「やってみてダメなら戻せる」——これがSCSの大きな安心材料です。
本植え込み
トライアルで効果が確認できたら、本植え込みを行います。
- 全身麻酔(または局所麻酔)
- 電極を永久的に固定し、発生器(IPG)を皮下に埋め込む
- 手術時間:1〜2時間
- 入院:約1週間
SCSの効果
研究データ
- FBSS患者さんへのSCSの効果:約60〜70%の方で痛みが半分以下に
- 痛みが50%以上改善した方の割合:再手術よりもSCSの方が高い(複数の比較研究で確認)
- 薬の使用量が減少する効果も
患者さんの生活への影響
痛みの軽減に加えて:
- 歩行距離の改善
- 睡眠の質の向上(痛みで目が覚めなくなる)
- 活動量の増加
- 薬の減量(副作用の軽減)
- 生活の質(QOL)の向上
SCSの進化
SCSの技術は近年大きく進歩しています。
従来のSCS
- 刺激部位にピリピリとした感覚(パレステジア)がある
- 「痛みの代わりにピリピリ感を感じる」仕組み
- 体位によって刺激の感じ方が変わることがあった
最新のSCS
| 技術 | 特徴 |
|---|---|
| 高頻度刺激(HF10) | 刺激を感じずに痛みだけ軽減。10,000Hz |
| バースト刺激 | 自然な神経活動パターンを模倣。より効果的な疼痛緩和 |
| DTM(Differential Target Multiplexed) | 複数の刺激パターンを同時に送る最新技術 |
| 閉ループシステム | 体の反応を自動検知し、刺激を自動調整 |
新しい技術により、従来型よりも効果的で、刺激感が少なく、体位に依存しない治療が可能になっています。
MRI対応
最新のSCSデバイスの多くはMRI対応です。SCSを植え込んだ後もMRI検査を受けることができます(条件あり)。
よくある質問
Q: 痛みは完全になくなりますか?
A: 完全にゼロになることは少ないですが、50〜70%の痛み軽減が多くの方で得られます。「痛みが半分になれば、生活がまるで違う」とおっしゃる患者さんは多いです。
Q: ずっと電気を流し続けるのですか?
A: 基本的に24時間刺激を行いますが、リモコンで自分でON/OFFや強さの調整が可能です。入浴時に一時的にOFFにすることもできます。
Q: 電池はどのくらい持ちますか?
A: 最新の充電式タイプは10年以上使用可能です。非充電式は3〜5年で電池交換(発生器の入れ替え手術)が必要です。
Q: 飛行機に乗れますか?
A: はい、飛行機の搭乗は可能です。空港のセキュリティゲートでは、係員にSCSのカードを見せてください。
Q: スポーツはできますか?
A: 多くのスポーツは可能です。ただし、体をひねる激しい運動や接触スポーツは、電極がずれるリスクがあるため控えた方が良い場合があります。
Q: 費用はどのくらいですか?
A: SCSは保険適用です。高額療養費制度の対象にもなりますので、月の自己負担は所得に応じた上限額までとなります(第10回参照)。
SCSは「最後の手段」ではない
以前は「何をやってもダメだった最後の手段」というイメージがありましたが、最近の考え方は変わってきています。
- 痛みが慢性化する前の、比較的早い段階でSCSを導入した方が効果が高い
- 何度も再手術を繰り返すよりも、SCSを選択した方が結果が良いケースがある
- 「最後の手段」ではなく、「適切なタイミングでの選択肢の一つ」
SCSについてもっと知りたい方へ
このブログシリーズを掲載しているscs-for-lcs.comには、SCSについてのより詳しい情報があります。
- SCSの仕組みと種類
- 治療の流れ
- 患者さんの体験談
- よくある質問
興味のある方は、ぜひご覧ください。
また、SCSの適応について相談されたい方は、主治医またはペインクリニックの先生にご相談ください。
まとめ
- SCS: 脊髄に微弱な電気刺激を送り、痛みを和らげる治療法
- 対象: 手術後の持続的な痛み、保存療法で改善しないケース
- 最大のメリット: トライアルで効果を確認してから本植え込み。ダメなら外せる
- 効果: 60〜70%の患者さんで痛みが半分以下に
- 進化: 高頻度刺激、バースト刺激など新技術で効果向上
- 保険適用: 高額療養費制度の対象
- 「最後の手段」ではなく、適切なタイミングでの選択肢