SCSを入れたあと — ご本人とご家族の毎日

植込み直後の注意、本体の大きさと充電、ふだんの暮らし、ご家族にできること、病院へ連絡すべきサイン。

機械のために暮らしを変えるのではなく、暮らしを取り戻すための機械です


このページでわかること

  • 植込みのあと、最初の数週間に気をつけること(とその理由)
  • 本体の大きさ・充電・電池のこと
  • 家電・お店のゲート・空港・病院での注意
  • ご家族にできること、ご家族に知っておいてほしいこと
  • すぐに病院へ連絡してほしいサイン
  • その根拠となる医学文献

1. まず知っておいてほしいこと

3分でわかるまとめ

脊髄刺激療法(SCS)の植込みを受けたあとも、傷が治れば、多くの方がこれまでに近い暮らしを送っています。ただし、植込んですぐの時期だけは、体を大きくひねる・深く前にかがむ・重い物を持ち上げる、といった動作を控えめにします。電極(細い電線)が体になじむ前に動くと、位置がずれることがあるためです。何をどのくらいの期間控えるかは、植込みを受けた病院の説明に従ってください。

体に入る本体は、名刺を半分に切ったくらいの大きさで、厚さは約1cmです。充電するタイプと、充電のいらないタイプがあり、充電のいらないタイプは本体がひと回り大きくなります。充電の間隔は、機器の種類や刺激の流し方・強さなどによって変わり、毎日のこともあれば、もっとずっと長い間隔ですむこともあります。

ふだんの家電はほとんど問題なく使えます。空港やお店のゲート、MRIや電気を使う治療の前には、患者カードを見せて「SCSが入っている」と伝えてください。

この治療は、ご本人とご家族と医療チームで支える治療です。説明を一緒に聞くこと、充電やリモコンを一緒に覚えること、「全部消える」と期待しすぎず、変わったところにも残る痛みにも耳を傾けること。傷の赤みや腫れ、発熱、刺激の急な変化、足の力が入りにくい・尿や便の異常に気づいたら、すぐに病院へ連絡してください。


起こりうる問題

よいことの前に、起こりうる問題をお伝えします。

SCSは、医学文献でも安全で、元に戻せる治療とされています。[1]一方で、植込みのあとに問題が起こることもあります。文献では大きく二つに分けて整理されています。[1]

種類 主なもの ひとこと
機器に関するもの 電極の位置のずれ、電線の断線や故障 機器に関する問題でいちばん多いのが電極のずれです
体に関するもの 傷の感染、本体を入れた場所の痛み 感染は、植込み直後の時期に特に注意が必要です
まれだが重いもの 頭痛(髄液の漏れ)、神経の障害 まれですが、早く気づくことが大切です

ここで数字(何%に起こるか)を書かないのは、報告によって定義や期間がまちまちで、古いデータも多く、あなたにそのまま当てはまるとは限らないからです。ご自分の場合のリスクは、担当の先生に直接たずねてください。

多くの問題は、早く気づけば対処できます。このページの後半に、ご本人とご家族に知っておいてほしいサインをまとめました。


2. 最初の数週間と、本体・充電

最初の数週間に動作を控える理由

電極が「なじむ」まで

電極は、背骨の中の、脊髄を包む膜の外側に置かれます。植込んだ直後は、まわりの組織にまだしっかり固定されていません。この時期に体を大きくひねったり、深く前にかがんだりすると、電極の位置がずれることがあります。

電極のずれは、SCSで起こる機器の問題の中で、もっとも多いものとして報告されています。[1][2]ずれると、刺激を感じる場所が変わったり、効き方が落ちたりして、設定の調整や、場合によっては入れ直しの手術が必要になります。

控える動作の例

控える動作 理由 ご家族にできること
体を大きくひねる 電極がずれやすい ひねらずに済むよう物の置き場所を変える
深く前にかがむ 電極がずれやすい 床の物を拾う、靴下をはくのを手伝う
重い物を持ち上げる 電極と傷に負担 買い物袋や布団を代わりに持つ
腕を頭より高く上げる動作 体幹が大きく伸びる 高い棚の物を代わりに取る

お風呂

傷が治るまでは、湯船ではなくシャワーにします。傷がしっかり閉じてから湯船に入るのは、感染を防ぐためです。[3]

期間は病院ごとの説明に従って

どの動作を、どのくらいの期間控えるかは、手術の方法や体の状態によって違います。植込みを受けた病院からの説明に従ってください。時期ごとのおおまかな目安は、SCS療法 詳細ガイド — 術後の生活ガイドにまとめています。


本体の大きさと、充電・電池のこと

大きさ

体に入る本体は、名刺を半分に切ったくらいの大きさで、厚さは約1cmです。おしりの上のあたりやおなかなど、皮膚の下に入れます。外から見て目立つことは多くありませんが、やせ型の方では、皮膚の上から少しふくらみがわかることがあります。

充電のいらないタイプは、本体がひと回り大きくなります。

充電するタイプと、充電のいらないタイプ

充電するタイプ 充電のいらないタイプ
毎日の手間 肌着など薄い服の上から、ベルトで充電器を固定して充電する 充電は不要
充電の間隔 機器の種類、刺激の流し方・強さなどで変わる。毎日のこともあれば、もっとずっと長い間隔のことも —
電池のもち 長くもつ 刺激の設定などで大きく変わり、数年で本体の交換になることが多い
本体の大きさ 名刺の半分くらい・厚さ約1cm ひと回り大きい
向いている方の例 充電の習慣をつくれる方、手伝える家族がいる方 充電の操作が難しい方、交換の手術を受け入れられる方

充電の間隔に決まった数字を書かないのは、同じ機器でも、刺激の設定によって大きく変わるからです。ご自分の場合の目安は、機器を選ぶ段階で確認しておきましょう。


3. ふだんの暮らしと、ご家族にできること

ふだんの暮らしで気をつけること

詳しいQ&AはSCS療法 詳細ガイド — よくある質問にもあります。ここでは、ご家族と一緒に確認しておきたい点に絞ります。

家電・スマートフォン

ふだん使いの家電やスマートフォン、パソコンは、ほとんど問題なく使えます。IH調理器は使えますが、長い時間、本体の上に身を乗り出すのは避けます。

お店の出入口・空港

お店の盗難防止ゲートは、立ち止まらずに通り抜けます。空港の保安検査では、機器が反応することがあるため、患者カードを係員に見せて伝えましょう。

病院・歯科・治療院

  • MRI検査:条件つきで受けられる機器が多くなっていますが、条件は機器によって違い、撮影前に設定の切り替えが必要なこともあります。[4]検査を予約するときに、必ず「SCSが入っている」と伝えてください。詳しくはSCS療法 詳細ガイド — MRI検査についてをご覧ください。
  • 電気や熱を使う治療:一般論として、電気を使う治療は控えていただくことになります。治療ごとに受けてよいかどうかは機器や治療の種類によって違い、一律には言えません。歯科、整骨院・接骨院、リハビリなどで電気を使う治療をすすめられたら、受ける前に**「SCSが入っている」と伝え**、植込みを受けた病院にも確認してください。
  • 手術や検査:ほかの病気で手術を受けるときも、担当の先生に必ず伝えてください。

運転

機器をつくる会社も私たち医師も、SCSを受けた方には運転中は刺激を切るようにお伝えすることになっています。私も、患者さんにはそうお話ししています。そのうえで、SCSが安全な運転にどのくらい影響するか、運転中に刺激を切るかどうかは、最終的にはご本人に判断していただくことになります。迷うときは、担当の先生に相談してください。


ご家族にできること

説明は、できれば一緒に聞く

SCSの説明には、電極、刺激、充電、調整など、聞き慣れない言葉がたくさん出てきます。

私の経験では、ご家族と一緒に考えていただくことがとても大切です。私(加藤)の外来では、SCSを考えている方に早めにパンフレットをお渡しして、ご家族と一緒に読んでいただき、次の外来であらためて相談するようにしています。「こんな機械をつけるんですか」と驚かれることもよくあります。そうした不安は、一つずつ一緒にほどいていきたいと考えています。

機器を扱うのは、誰か

ご高齢の方では、充電やリモコンの操作をご本人ができるか、ご家族が手伝えるかで、選ぶ機器が変わってきます。

  • 充電するタイプなら、充電の習慣づけを一緒に
  • リモコンの使い方を、ご家族も一緒に覚える
  • 充電の操作が難しい場合は、充電のいらないタイプも含めて相談する

「全部消える」と期待しすぎない

SCSは、痛みを和らげる治療です。痛みがすっかりなくなる方もいますが、少し残ることも多くあります。

私は、患者さんに「痛みが半分くらいになることを目指しましょう」とお話ししています。ご家族が「これで治るね」と言ってしまうと、ご本人は残っている痛みを口にしにくくなります。

それよりも、変わったところにも、まだつらいところにも、同じように耳を傾けてあげてください。

痛みは、ご家族の暮らしでもある

慢性の痛みは、ご本人だけでなく、そばで支えるご家族の暮らしにも影響します。夜の痛みで、ご家族も眠れない日が続くこともあります。痛みが和らぐことは、ご家族の暮らしを取り戻すことにもつながります。


4. すぐ連絡してほしいサインとチェックリスト

すぐに病院へ連絡してほしいサイン

次のようなことに気づいたら、植込みを受けた病院へ連絡してください。夜間や休日でも、我慢せずに連絡してかまいません。

サイン 考えられること
傷のまわりが赤く腫れる、熱をもつ、汁が出る 傷の感染
熱が出た 感染
刺激の感じ方が急に変わった、強すぎる、感じなくなった 電極のずれ、機器の不具合
足に力が入りにくい、尿や便の様子がおかしい まれだが急いで調べる必要がある神経の問題
横になると楽になる強い頭痛 髄液の漏れ

感染は、植込み後の早い時期に起こることが多いとされ、早く見つけて治療することが大切です。[3] 神経の障害はまれですが、気づいたら急いで対応する必要があります。[5]

小さな変化に早く気づけるのは、毎日そばにいるご家族です。「気のせいかな」と思っても、遠慮なく連絡してください。


ご家族のためのチェックリスト

時期 チェック項目
植込み前 □ 説明を一緒に聞いた □ 充電やリモコンを誰が扱うか決めた □ 聞きたいことをメモした
退院直後 □ ひねる・かがむ・重い物の動作を代わっている □ 傷の赤み・腫れ・熱を毎日見ている □ 湯船ではなくシャワーにしている
ふだん □ 患者カードを持って出かけている □ 充電の習慣ができている □ 病院や歯科で「SCSが入っている」と伝えている
調整の日 □ 歩けた距離やつらい時間帯を一緒にメモした □ 刺激の感じ方の変化を伝えた
いつでも □ 「できるようになったこと」を声に出してほめている

5. 医師への質問・次に読む

医師への質問(植込みのあと編)

  1. 「植込みのあと、何を、どのくらいの期間控えればいいですか?」

    • 控える動作と、湯船に入れる時期を確認できます
  2. 「この機器の充電の間隔は、私の設定だとどのくらいになりそうですか?」

    • 充電の手間を、ご自分の場合で具体的に知ることができます
  3. 「MRIや、ほかの病院での治療のときに、気をつけることは?」

    • 患者カードの使い方、伝えるべき内容がわかります
  4. 「どんなときに、すぐ連絡すればいいですか?連絡先はどこですか?」

    • 夜間・休日の連絡先も確認しておきましょう
  5. 「運転は、いつから、どんな注意をすればいいですか?」

    • 刺激を切る必要があるかを確認できます

次に読む


※本ページは一般的な情報提供を目的としています。生活上の注意や制限は、機器の種類、手術の方法、体の状態によって異なります。必ず植込みを受けた病院の説明に従ってください。

※SCSに関する研究や専門家の提言の多くには、機器メーカーと利益相反関係をもつ研究者が参加しています。

出典
  1. Eldabe S, Buchser E, Duarte RV. Complications of Spinal Cord Stimulation and Peripheral Nerve Stimulation Techniques: A Review of the Literature. *Pain Med*. 2016;17(2):325-336. PMID: 26814260 — 機器の問題でいちばん多いのは電極のずれ、体の問題では感染と植込み部の痛みが多く、重い神経障害はまれ。文献をまとめた**総説(レビュー)**。
  2. Mekhail NA, Mathews M, Nageeb F, et al. Retrospective review of 707 cases of spinal cord stimulation: indications and complications. *Pain Pract*. 2011;11(2):148-153. PMID: 21371254 — 機器の問題の中で電極のずれが多く、永続的な神経障害はなかった。一施設の多数例を振り返った**後ろ向きの観察研究**。
  3. Deer TR, Provenzano DA, Hanes M, et al. The Neurostimulation Appropriateness Consensus Committee (NACC) Recommendations for Infection Prevention and Management. *Neuromodulation*. 2017;20(1):31-50. PMID: 28042909 — 植込み型神経刺激装置の感染の予防と対応。**専門家の合意(コンセンサス)**。
  4. Sayed D, Chakravarthy K, Amirdelfan K, et al. A Comprehensive Practice Guideline for Magnetic Resonance Imaging Compatibility in Implanted Neuromodulation Devices. *Neuromodulation*. 2020;23(7):893-911. PMID: 32809275 — MRIの条件は機器ごとに異なり、撮影前の確認が必要。学会作業部会による**実践ガイドライン**。
  5. Deer TR, Mekhail N, Provenzano D, et al. The appropriate use of neurostimulation: avoidance and treatment of complications of neurostimulation therapies for the treatment of chronic pain. *Neuromodulation*. 2014;17(6):571-597. PMID: 25112891 — 重い合併症を含む、合併症の予防と早期対応。**専門家の合意(コンセンサス)**。