お薬について

慢性腰痛のお薬が得意なことと気をつけたいことを、研究でわかっていることをもとにお伝えします。

慢性腰痛では、お薬だけで痛みをなくすのは難しく、運動や生活の工夫と組み合わせるのが基本です。お薬は、体を動かしやすくするための支え役です。


このページの情報は、お薬について正しく理解していただくためのものです。**お薬の変更や中止は、必ず主治医に相談してから行ってください。**自己判断での変更は危険です。


このページでわかること

  • それぞれのお薬が得意なことと、研究でわかっていること
  • 高齢者が特に気をつけるべき副作用
  • アセトアミノフェン(カロナール)について知っておきたいこと
  • 日本で使われる漢方薬について
  • お薬の「役割」を正しく理解する

お薬は「主役」ではなく「補助役」です。

お薬だけで慢性腰痛を十分に和らげるのは難しいことが多い、と考えられています。お薬の役割は、痛みを少し楽にして、運動やリハビリに取り組みやすくすることです。


1. 痛みのタイプとお薬の比較

なぜ複数のお薬が必要なのか:2つの痛みタイプ

慢性腰痛の治療で「お薬が多い」と感じる方がいらっしゃいますが、これには理由があります。腰痛の痛みは大きく2つのタイプに分かれ、それぞれ効くお薬が違います。

痛みのタイプ 特徴 使われることが多いお薬
炎症の痛み(侵害受容性疼痛) ズキズキ、重だるい腰の痛み。動かすと痛む 消炎鎮痛剤(ロキソプロフェン〈ロキソニン〉など)、湿布
神経の痛み(神経障害性疼痛) ビリビリ、ジンジン、電気が走る脚の痛み・しびれ プレガバリン(リリカ)、ミロガバリン(タリージェ)、デュロキセチン(サインバルタ)

慢性腰痛では、この2つの痛みが同時にあることが少なくありません。慢性腰痛のかなりの割合に神経障害性疼痛が含まれることが、研究でも報告されています。そのため、痛みのタイプに合わせて複数のお薬を使うことになります。

痛みのタイプについて詳しくは「なぜ腰が痛いのか」をご覧ください。


お薬の比較表

お薬の種類 代表的な薬品名 主な使い道 高齢者のリスク
アセトアミノフェン カロナール 痛み全般。胃や腎臓への負担が比較的少ない 肝臓(量の多い時期・市販薬との重複)
消炎鎮痛剤(NSAIDs) ロキソプロフェン(ロキソニン)、セレコキシブ(セレコックス) 炎症による痛み 胃腸・腎臓・心臓に注意
デュロキセチン サインバルタ 慢性腰痛の痛み(日本で承認) 吐き気、めまい
プレガバリン リリカ 脚のしびれ・神経の痛み めまい、眠気、ふらつき
ミロガバリン タリージェ 脚のしびれ・神経の痛み めまい、眠気
トラマドール トラマール、トラムセット(配合剤)、ツートラム(徐放剤) ほかのお薬で足りない痛み 吐き気、便秘、体が慣れやすい
湿布(外用剤) ロキソプロフェンテープ 局所の痛み 全身への副作用が比較的少ない選択肢
漢方薬 芍薬甘草湯、疎経活血湯 筋肉のこわばり、痛み 甘草による偽アルドステロン症
筋弛緩薬 ― 筋肉のけいれん(慢性腰痛では期待ほどの効果が確認されていない) 眠気、口の渇き
強いオピオイド ― 強い痛み ガイドラインは慎重。体が慣れて効きにくくなる

2. 各お薬の詳しい解説

アセトアミノフェン(カロナール):知っておきたいこと

アセトアミノフェン(商品名:カロナールなど)は、胃や腎臓への負担が比較的少なく、ご高齢の方にも使いやすいお薬です。

以前は使える量の上限が低く、効果を実感しにくいお薬でした。今は十分な量まで使えるようになり、量が合えば、効果を実感できる方もいます。一方で、海外の研究では、腰痛に対して期待ほどの効果が確認されなかった報告もあり、慢性腰痛についての質の高い研究はまだ少ないのが実際です。

気をつけたいのは肝臓です。

  • 量の多い時期が長く続くときは、血液検査で肝臓の働きを確かめます
  • かぜ薬や市販の痛み止めにも、同じ成分が入っていることがよくあります。重ねて飲まないよう、市販薬を買うときはお薬手帳を見せてください
  • お酒をたくさん飲む方は、主治医に伝えておいてください

飲んでいて気になることがあれば、自己判断でやめずに、主治医に相談してください。


消炎鎮痛剤(NSAIDs):長く飲むときは体への負担に注意

ロキソプロフェン(ロキソニン)、ジクロフェナク(ボルタレン)、セレコキシブ(セレコックス)などの消炎鎮痛剤は、日本でよく使われる痛み止めです。

炎症による痛みを和らげるお薬で、急な強い痛みのときによく使われます。一方で、長く毎日飲み続けると、体への負担が重なることがあります。

高齢の方は、次の副作用に特に注意が必要です。

リスク 詳しい内容
胃腸障害 胃潰瘍、消化管出血。血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)やステロイドとの併用で危険が増す
腎臓への負担 腎機能低下、むくみ。腎臓の働きが弱い方は特に注意
心臓への影響 心筋梗塞、脳卒中のリスクがわずかに上昇。心不全の悪化
お薬の相互作用 複数のお薬を飲んでいる方(多剤併用)は、相互作用に注意が必要

高齢の方では、飲み薬よりも湿布(外用剤)のほうが全身への副作用が比較的少ないとされています。


デュロキセチン(サインバルタ):慢性腰痛に承認された抗うつ薬

デュロキセチンはもともと抗うつ薬として開発されましたが、慢性的な痛みにも効果があることがわかりました。

  • 慢性腰痛に対して効果が認められ、日本および海外で承認されています
  • 痛みと機能の両方を改善すると報告されています
  • うつ症状を伴う慢性腰痛で、特に効果が出やすい傾向があります

注意点:

  • 効果が出るまで2〜4週間かかることがあります
  • 吐き気、めまい、眠気が起きることがあります
  • 急にやめると離脱症状が出ることがあります。必ず医師の指示に従って減量してください

「抗うつ薬」という名前から「自分はうつ病ではないのに…」と心配される方がいます。デュロキセチンは、ここでは痛みの伝わり方を調整するお薬として使われており、うつ病の治療とは目的が違います。


プレガバリン(リリカ)・ミロガバリン(タリージェ):神経の痛みに

慢性腰痛には、神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)という、神経の異常による痛みが含まれていることが少なくありません。ピリピリ、ジンジン、電気が走るような痛みが特徴です。

  • プレガバリン(リリカ)は、世界中で広く使われている神経の痛みの薬です
  • ミロガバリン(タリージェ)は日本で開発された新しい薬で、リリカと同じ仕組みで働きます

ただ、腰そのものの痛みや坐骨神経痛に対しては、研究では、はっきりした効果が確かめられていないところがあります。ですから、神経の痛みが混じっているかどうかを見ながら、主治医が使い分けています。飲んでいて気になることがあっても、自己判断でやめずに、主治医に相談してください。

高齢の方では、特に次の点に気をつけてください。

  • よくみられる副作用は、めまいと眠気です
  • ふらつきによる転倒、特に夜間のトイレに注意してください
  • 飲んでいる間は、車の運転を控えてください
  • 少ない量から始めて、ゆっくり増やします

トラマドール(トラマール・トラムセット・ツートラム):NSAIDsの次のステップ

トラマドールは「弱いオピオイド」に分類されますが、セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害という、デュロキセチン(サインバルタ)に似た作用も持っています。日本では、NSAIDsで痛みが十分にコントロールできない場合の次のステップとして使われることが多いお薬です。

  • 日本の腰痛診療ガイドライン(2019年)でも、慢性腰痛に使うことが提案されているお薬の一つです
  • うつ症状を伴う腰痛患者に効果がある可能性が示されています
  • 日本では、トラマドール単独のトラマール、アセトアミノフェンとの合剤トラムセット、徐放製剤のツートラムなど、複数の製剤が広く使われています

注意点:

  • 飲み始めに吐き気が出やすく、吐き気止めと一緒に処方されることがあります
  • 便秘、めまいが起きやすいお薬です
  • 長期使用では体が慣れて効きにくくなることがあります。自己判断で量を増やさないでください
  • 急にやめないでください。離脱症状が出ることがあるので、減量は医師の指示で行います
  • 高齢の方では、通常量より少なめから始めます

トラマドールは適切に使えば有効なお薬ですが、漫然と長く使い続けるものではありません。主治医と定期的に効果を確かめながら使ってください。

飲み方と注意点について詳しくは「トラマドール(トラムセット・ツートラム)の飲み方と注意点」をご覧ください。


強いオピオイド:ガイドラインは慎重

トラマドールより強いオピオイドについて、日本の腰痛診療ガイドライン(2019年)は慎重です。使うとしても、十分に評価したうえで限られた方に、できるだけ短い期間・少ない量で、という考え方です。

  • 長く使うと体が慣れて効きにくくなることがあり、使うときには十分な注意が必要とされています
  • 便秘、吐き気、眠気などの副作用も出やすいお薬です

強いオピオイドを使うかどうかは、ほかの治療法を検討したうえで、主治医と相談して決めます。

日本では欧米と比べてオピオイドの処方が慎重で、これは正しい方向です。


湿布・塗り薬(外用剤):高齢者に適した選択

日本の医療では、湿布(しっぷ)がとても一般的に使われます。

  • ロキソプロフェンテープやジクロフェナクパッチなどが代表的です
  • 飲み薬と比べて、胃腸・腎臓・心臓への副作用が少なくなります
  • 国民健康保険で適用されます
  • 痛い場所に直接貼るので、その場所での効果が期待できます

高齢の方にとって、湿布は全身への副作用が比較的少ない痛み止めの選択肢です。


漢方薬:日本の医療に根づいた選択肢

漢方薬は、日本では西洋医学と並んで広く使われており、148の処方が国民健康保険で適用されています。

漢方薬 読み方 主な効果
芍薬甘草湯 しゃくやくかんぞうとう 急な筋肉のけいれん・こむら返り
疎経活血湯 そけいかっけつとう 慢性的な腰のこわばりと痛み
八味地黄丸 はちみじおうがん 高齢者の全身の衰えと腰痛
牛車腎気丸 ごしゃじんきがん 下肢の痛み・しびれと腰痛

注意点:

  • 甘草(かんぞう)を含む漢方薬は、長期使用で「偽アルドステロン症」(むくみ、血圧上昇、筋力低下)を起こすことがあります
  • 特に高齢の方は、定期的な血液検査が必要です
  • 自然由来だから安全とは限りません。漢方薬もお薬です

筋弛緩薬(きんしかんやく):慢性腰痛では期待ほどの効果が確認されていない

筋弛緩薬は、急性の筋肉のけいれんには効果があるかもしれません。ただし、

  • 慢性腰痛に対しては、長期的な効果は確認されていません
  • よくみられる副作用は、眠気と口の渇きです
  • 高齢の方では転倒のリスクが増すため、特に注意が必要です

3. お薬との付き合い方とまとめ

お薬を使う上での心がまえ

お薬でできること、できないこと

お薬でできること お薬ではできないこと
痛みを少し楽にする 慢性腰痛を完全に治す
運動やリハビリに取り組みやすくする 筋力や柔軟性を回復させる
不安や抑うつの症状を軽減する(一部の薬) 恐怖回避行動のパターンを変える
神経の過敏さを和らげる(一部の薬) 生活習慣を改善する

主治医に伝えてほしいこと

  • 今飲んでいるすべてのお薬(市販薬、サプリメント、漢方薬を含む)
  • 胃腸、腎臓、心臓の持病
  • お薬の効果を感じているかどうか
  • 副作用の症状

まとめ

  • アセトアミノフェン(カロナール)は胃や腎臓への負担が比較的少なく、量が合えば効果を実感できる方もいます。肝臓には注意が必要です
  • ロキソプロフェン(ロキソニン)などのNSAIDsは、高齢の方では長く飲むと胃腸・腎臓・心臓への負担に注意が必要です
  • デュロキセチン(サインバルタ)は、日本で慢性腰痛の痛みに使うことが認められている抗うつ薬です
  • プレガバリン(リリカ)・ミロガバリン(タリージェ)は脚のしびれや神経の痛みに使うお薬で、めまいと転倒に注意が必要です
  • トラマドールは、日本の腰痛診療ガイドラインで慢性腰痛に使うことが提案されているお薬の一つです
  • それより強いオピオイドについて、ガイドラインは慎重です。使うとしても限られた方に、短い期間・少ない量で使います
  • 湿布は、高齢の方にとって全身への副作用が比較的少ない選択肢です
  • 漢方薬は国民健康保険で適用されますが、副作用の監視は必要です
  • お薬は、体を動かすための支え役です。運動・教育・心理的アプローチと組み合わせると、より効果的です

4. 主治医に聞いてみましょう

主治医に聞いてみましょう

お薬について主治医と相談するときは、次のような質問が参考になるかもしれません。

  • 「私の痛みは、炎症によるものですか?それとも神経からくるものですか?」
  • 「今飲んでいるお薬は、私の痛みのタイプに合っていますか?」
  • 「このお薬は、いつまで飲み続ける必要がありますか?」
  • 「副作用が気になるのですが、他の選択肢はありますか?」
  • 「飲み薬の代わりに、湿布に切り替えることはできますか?」
  • 「お薬と運動療法を組み合わせる場合、どのように進めたらよいですか?」

主な参考文献

利益相反の開示: このウェブサイトの監修医師は、脊髄刺激療法(SCS)を実施する脊椎外科医です。掲載内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、特定の治療を推奨するものではありません。治療の選択は、患者さんの状態に応じて、主治医と相談のうえで行ってください。

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