固定術

不安定な背骨をネジとスペーサーで固定する手術。PLIF・TLIF・LLIF・ALIFの種類と適応、低侵襲手術を解説します。

グラグラした背骨を、ネジとスペーサーでしっかり固定する手術です。


このページでわかること

  • 固定術とは何をする手術か
  • どんなときに固定術が必要か
  • ガイドラインの推奨(エビデンス)
  • 固定術の種類(後ろから・横から・お腹側から)
  • 低侵襲固定術(MIS・MISt)
  • 除圧術(じょあつじゅつ)との成績比較
  • リスクと合併症
  • よくある質問

1. 固定術のあらまし

3分でわかるまとめ

背骨がゆがんだりグラグラしたままだと、神経の通り道がつぶれやすく、立ったり歩いたりするたびに神経がよけいに押されてしまいます。それを防ぐのが「固定術(こていじゅつ)」です。ネジとスペーサー(骨と骨のあいだに入れる、つっかえ棒のようなもの)で、不安定になった背骨をしっかり固定します。ぐらつく本棚を金具と木片で留めて、これ以上ゆがまないようにする工事をイメージしていただくと分かりやすいと思います。時間がたつと、固定したすき間に自分の骨がくっついて、ひとつの固いかたまりになります。

背骨の手術には、神経の通り道を広げる「除圧術(じょあつじゅつ)」だけで十分なことも多くあります。固定術を一緒に行うのは、次のような「不安定さ」があるときです。

  • 腰の骨が前後にずれている(すべっている)
  • 前かがみ・後ろそらしで骨が大きく動いてしまう
  • 骨をたくさん削るため、削った後がグラグラになりそう
  • 腰の骨が強く曲がっていて、バランスが悪い

ガイドラインでも、必要のない固定を最初から加えることはすすめられていません。「自分に固定は本当に必要か」は、主治医に確かめてください。脚の痛みやしびれをとるのは除圧の部分で、固定を加えるかどうかは、骨のぐらつきやすべりといった骨の状態で決めます。腰が痛いかどうかで決めるものではありません。

手術のやり方には、背中側から行う方法、わき腹から行う方法、お腹側から行う方法などがあります。入っていく方向は違っても、やっていることは「ぐらついた骨を固定して、神経の通り道を保つ」という点で同じで、成績にも大きな差はないとされています。名前を覚える必要はありません。最近は、キズを小さくして体の負担を減らす「低侵襲(ていしんしゅう)手術」も選べるようになり、ご高齢の方でも早く起きて歩けることが期待できます。

1〜2椎間の固定であれば、日常生活の動きに大きな支障が出ることは多くありません。入れた金属は、基本的にそのまま入れたままで大丈夫です。手術のあとは、固定した部分に自分の骨がしっかりつくまでしばらく時間がかかり、その間は動きに気をつけながら少しずつ元の生活に戻っていきます。ただし固定術には、固定した部分の上下の骨に長く負担がかかる、という長期的な注意点もあります。


固定術とは

腰の骨がゆがんでいたり、グラグラしていると:

  • 神経の通り道がつぶれやすい
  • 立ったり歩いたりすると、余計に神経が押される

という状態になります。そこで行うのが「固定術」です。

  • 弱っている骨と骨のあいだに「スペーサー(つっかえ棒のようなもの)」を入れる
  • さらに、ネジ(スクリュー)と棒(ロッド)でしっかりと締めて、その部分が動かないようにする
  • 時間がたつと、そのすき間に自分の骨がくっついて、一つの固い骨のかたまりになります

固定術:ネジとロッドで椎骨を固定している様子

イメージとしては、ぐらつく本棚を金具と木片でしっかり固定して、これ以上ゆがまないようにする工事です。


2. どんなときに固定術が必要か

除圧術(神経の通り道を広げる手術)だけでよい場合も多いですが、次のようなときは固定術を一緒に行うことがあります。

  • 腰の骨が前後にずれている(すべっている)
  • レントゲンで、前かがみ・後ろそらしで骨が大きく動いてしまう
  • 神経の通り道を広くするために骨をたくさん削る必要があり、削るとそこがグラグラになりそうなとき
  • 腰の骨が強く曲がっていて、そのままではバランスが悪いとき

通り道を広げるだけだと骨が不安定になる、あるいはすでに不安定、というときに「一緒にしっかり固定しましょう」という話になります。すべり症があるというだけで固定が必要とは限りません。ずれとぐらつきの違いや、椎間関節の向きの見方は、すべり症の手術 のページにまとめています。

固定を加えるかを決める手がかり

固定を加えるかどうかは、一つの数字で決まるものではありません。医師が見るのは、主に次のようなところです。

  • 前かがみと後ろにそった姿勢で、骨がどれだけ動くか(ぐらつき)
  • 骨と骨のあいだのクッション(椎間板)の高さが、保たれているか
  • 背骨の後ろの関節(椎間関節)の向きと、MRIで関節に水がたまっていないか
  • 神経を十分に広げるために、骨や関節をどのくらい削る必要があるか

これらを合わせて判断しますが、どれをどれだけ重く見るかは、医師によって少しずつ違います。くわしくは すべり症の手術 のページをご覧ください。

ガイドラインの推奨(診療ガイドライン2021より)

推奨内容 推奨度 エビデンス
脊椎不安定性のある症例 では除圧固定術は有用でありQOL/ADLの改善が見込まれる。ただし、コストは除圧術単独より高く、復職率はやや劣る。併発症や再手術率も増加するため、病態・術式を熟考して適応を検討 する 2(提案) B

単純な腰部脊柱管狭窄症では除圧単独と除圧+固定で成績差は限定的であり、合併症は固定術で増えるとされています。ガイドラインでも「ルーチンな固定術追加は推奨されない」方向です。固定が本当に必要かどうかは、術前にしっかり見極める必要があります。


3. 固定術の種類と低侵襲手術

固定術の種類

固定術はどれも、ぐらぐらの部分をネジとスペーサーで固定する点は同じです。違うのは、どの方向から腰に入っていくかです。

1. 後ろからの固定術(PLIF・TLIF)

背中側の真ん中を切って、腰の骨に近づきます。神経の通り道を広げる手術(除圧)と、固定の手術を、同じ方向から続けて行えます。

骨と骨のあいだのクッション(椎間板)の悪くなった部分を取り除き、そのすき間にスペーサー(ケージ)と自分の骨を入れて固定します。さらに、左右の骨にネジを入れて棒でつなぎます。

PLIF(プリフ) 背中側から、左右両方の神経のそばを通って、真ん中にスペーサーを入れるやり方です。広く見える反面、神経のすぐそばをたくさん触る必要があり、神経のきずや神経の袋の破れのリスクがやや高くなります。

TLIF(ティーリフ) 片側から少し斜めに入っていき、片側からスペーサーを入れます。神経のさわる範囲がPLIFより少なくてすむので、神経のダメージのリスクを少し減らしたPLIFに近いイメージです。傷を小さめにした低侵襲手術とも組み合わせやすいです。

術式 進入方向 特徴
PLIF 後方・両側 広く見える。神経の牽引が多め
TLIF 後方・片側 神経の負担を減らせる。MIS化しやすい

2. 横からの固定術(LLIF・XLIF)

わき腹のあたりを小さく切って、お腹の内臓をよけて、横から背骨に近づく方法です。

大きめのスペーサーを骨と骨のあいだに入れて、その「厚み」で、つぶれていた神経の通り道を内側から広げる(間接的に広げる)狙いがあります。多くの場合、別に小さな傷からネジを入れて、後ろ側もしっかり固定します。

メリット

  • 背中の筋肉を大きく切らずにすむ
  • 腰の骨が横に曲がっていたり、複数の場所が悪いときに、バランスを整えながら通り道を広げるのに向いている

デメリット

  • 足へ向かう神経の近くを通るため、太もものしびれ・力の入りにくさなどが出ることがある(多くは時間とともに軽くなる)
  • 骨盤や血管の位置の関係で、すべての場所にこの方法が使えるわけではない

3. お腹側からの固定術(ALIF)

下腹部(おへその下あたり)を切って、お腹側から背骨に近づく方法です。

前から骨と骨の間のクッションを取り出し、比較的大きなスペーサーを入れることで、腰の反りぐあいと高さをしっかりと戻せます。多くの場合、別に背中側からネジを入れて補強(前後で固定)します。

メリット

  • 悪くなったクッションをしっかり取り除き、高さと角度をつけたスペーサーを入れやすい
  • 背中の筋肉や神経に直接さわらないため、再手術などで選ばれることがある

デメリット

  • お腹の中の太い血管や内臓の近くを通るため、出血や内臓の合併症など、この方法特有のリスクがある
  • 体型や以前のお腹の手術歴によっては、向かない場合もある

それぞれの方法の違いは、同じ背骨の図で比べた 固定術の種類 のページにまとめています。

どの方法を選ぶか

固定術には、背中から行う方法、横から行う方法、お腹側から行う方法など、いくつか種類があります。やっていることはどれも、「ぐらぐらした骨をネジとスペーサーでしっかり固定して、神経の通り道を保つ」という点で同じです。

最終的には、以下の観点で医師が術式を選びます:

  • どの場所の神経の通り道が狭いか
  • 骨がどのくらいずれているか、曲がっているか
  • 体格や他の病気(心臓・肺・お腹の病気など)
  • これまでの手術歴
  • どこまで生活の質を改善したいか

どのアプローチでも、適応を守れば疼痛軽減・機能改善・骨癒合率は概ね良好で、明確な優劣はつけ難いとされています。名前は覚えなくて大丈夫ですが、こういう考え方で方法を選んでいます。


低侵襲固定術(MIS・MISt)

MIS(ミス)とは

MIS は「Minimally Invasive Surgery(負担の少ない手術)」の略で、小さなキズの手術という意味です。

  • 皮膚を大きく切らない(キズが小さい)
  • 出血が少ない
  • 筋肉などをできるだけ傷つけない

その結果、痛みが少ない・早く歩ける・入院期間が短くなりやすい、というメリットが期待できます。

MISt(ミスト)とは

MISt は「Minimally Invasive Spine Stabilization(最小侵襲脊椎安定術)」の略で、なるべく小さなキズで背骨を安定させる手術の総称です。

昔ながらの手術だと、背中を大きく開いて筋肉をたくさんはがしていましたが、MIStでは小さな穴をいくつか開けて、そこからネジやスペーサーを入れて固定します。

出血や痛みが少なく、特にご高齢の方では、早くベッドから起きて歩けることが期待できます。

MIS-TLIF などとの関係

PLIF・TLIF・LLIF・ALIFなどの固定術は、やり方によって従来型(大きく開ける方法)とMIS型(小さなキズで行う方法)に分かれます。

例えば:

  • MIS-TLIF = TLIFを小さなキズで行う方法
  • MIS-PLIF、MIS-LLIF なども同様

短くまとめると:

  • MIS = 小さなキズで体の負担を減らす手術の総称
  • MISt = その中でも「背骨を安定させる手術」を、小さなキズで行う方法の総称

小さな傷でネジを入れる方法(PPS)や、ナビゲーション・ロボット支援については、固定術の種類 のページで図を使って解説しています。


4. 成績・リスク・よくある質問

除圧術との成績比較

除圧だけの手術と、除圧に固定を加えた手術を比べた、海外の大規模な比較試験があります。

評価項目 結果
脚の痛み・しびれ 差は示されていない
腰の痛み・生活のしやすさ 安定したすべり症の方を含め、固定を加えても良くなるとは示されていない(固定のほうが良かったとする小規模な試験もある)
再手術 試験によって結果が分かれる

わかりやすくまとめると、次のようになります。

  • 脚の痛み・しびれをとるのは、除圧の部分です
  • 固定を加えるかどうかは、ぐらつき・すべり・骨と骨のあいだの高さ・腰のそりといった、骨の状態で決めます。腰が痛いかどうかで決めるものではありません
  • 固定を加えれば成績が良くなる、とは限りません。迷うときは、主治医と話し合ってよい部分です

リスクと合併症

固定術に伴うリスク

メリット デメリット
背骨を安定させられる 手術の負担が大きい(手術時間・出血量が多い)
変形の矯正ができる 固定部位の可動域がなくなる
骨と骨のあいだの高さを戻せる コストが除圧術単独より有意に高い
長期的な安定性 復職率が除圧術単独よりやや低い
不安定性のある症例で長期成績良好 隣接部位への負担が増える可能性
インプラント関連(ネジのゆるみ・折損など) が数%で起こりうる

固定術の長期的なリスク:隣接椎間障害

固定術を受けた後、固定した部位の上下の椎間に負担がかかり、新たな問題が起こることがあります。固定術を考えるときには、必ず知っておいてください。

詳しくは 固定術の長期リスク をご覧ください。

肥満患者さんへの注意

ガイドラインの解説より:

BMI 30以上の肥満患者さんでは、除圧術の効果はあるものの、非肥満患者さんに比べて症状改善を認める割合が低いとの報告があります。また、肥満患者さんに対する除圧固定術の入院期間は最も長いとされています。


よくある質問

Q. 固定術を受けると腰が動かなくなりますか?

A. 固定した椎間は動かなくなりますが、1〜2椎間の固定であれば日常生活での動きに大きな支障はありません。ただし、固定範囲が広くなると可動域の制限は大きくなります。

Q. 金属は一生入れたままですか?

A. 基本的に抜く必要はありません。ただし、感染やネジのゆるみなど問題が起きた場合は、金属を取り除く手術が必要になることがあります。

Q. 除圧術と固定術、どちらが良いですか?

A. 不安定性がなければ除圧術だけで十分なことが多いです。不安定性やすべりがあっても、除圧だけで十分な方もいます。海外の大規模な比較試験では、固定を加えても成績が良くなるとは限らないことが示されています。「自分に固定術は本当に必要か」 を主治医にしっかり確認しましょう。

Q. 入院期間はどのくらいですか?

A. 固定術で2〜3週間程度が目安です。低侵襲手術(MIS)ではより短くなることもあります。

Q. 仕事にはいつ復帰できますか?

A. デスクワークなら1〜2ヶ月、肉体労働は3〜6ヶ月が目安です。骨がつくまで(約3〜6ヶ月)は活動制限があります。


5. 医師への質問とまとめ

医師への質問

固定術を提案された場合に、確認しておきたいポイント:

  1. 「なぜ除圧術だけでは不十分なのですか?」

    • 不安定性の根拠を具体的に確認できます
  2. 「固定する範囲は何椎間ですか?」

    • 固定範囲が広いほど隣接椎間障害(りんせつついかんしょうがい)のリスクが高まります
  3. 「どの方向からアプローチしますか?」

    • 後方・側方・前方で、それぞれリスクが異なります
  4. 「低侵襲手術(MIS)は適応できますか?」

    • 体への負担を減らせる可能性があります
  5. 「隣接椎間障害のリスクはどのくらいですか?」

    • 長期的なリスクを理解し、術式選択に役立てられます
  6. 「固定術後に痛みが残った場合の選択肢は?」

    • 将来的な治療の幅を確認できます

まとめ

ポイント 内容
固定術の目的 グラグラした背骨をネジとスペーサーで安定させる
検討される場合 すべり症、不安定性、骨と骨のあいだの高さを戻したいとき、広範囲除圧後(腰痛の有無では決めない)
ガイドラインの推奨 不安定性のある症例に有用(エビデンスB)。ルーチンな追加は推奨されない
術式の選択 後方(PLIF/TLIF)・側方(LLIF)・前方(ALIF)がある。どれも成績は概ね良好
低侵襲手術 MIS/MIStで体への負担を減らせる可能性がある
除圧術との違い 大規模な比較試験では、固定を加えても成績が良くなるとは示されていない。コスト・復職率ではやや不利
長期リスク 隣接椎間障害に注意が必要

次に読む

→ 固定術の種類:なぜ固定するのか、固定術の歩み、PLIF・TLIF・LLIF・OLIF・ALIFの違いを図で比較

→ 固定術のリスク:隣接椎間障害や長期的なリスクを詳しく解説

→ SCS療法(脊髄刺激療法):体を作り変えない、元に戻せる治療。仕組みとリスク

→ 治療法の詳細比較:固定術とSCSの費用・リスク・長期経過を比較


主な参考文献

  1. 日本整形外科学会・日本脊椎脊髄病学会(監修)『腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021(改訂第2版)』南江堂, 2021.
  2. Försth P, et al. "A Randomized, Controlled Trial of Fusion Surgery for Lumbar Spinal Stenosis." N Engl J Med. 2016. PMID 27074066.
  3. Austevoll IM, et al. "Decompression with or without Fusion in Degenerative Lumbar Spondylolisthesis." N Engl J Med. 2021. PMID 34347953.
  4. Kgomotso EL, et al. "Decompression alone or with fusion for degenerative lumbar spondylolisthesis (Nordsten-DS): five year follow-up." BMJ. 2024. PMID 39111800.
  5. Ghogawala Z, et al. "Laminectomy plus Fusion versus Laminectomy Alone for Lumbar Spondylolisthesis." N Engl J Med. 2016. PMID 27074067.

このページは医学的に正確な情報を提供していますが、個別の診断・治療については医師にご相談ください。