すべり症の手術 — 除圧だけか、固定もするか すべり症があっても、それだけで固定が必要とは限りません。「ずれ」と「ぐらつき」の違い、結論が分かれる研究、椎間関節の向き、主治医に聞きたい三つの質問。
「MRIで、すべり症もあると言われた」「すべっていたら、固定の手術をしないといけないの?」。脊柱管狭窄症で手術をすすめられた方から、よくいただく質問です。すべり症があるというだけで、固定が必要になるとは限りません。このページでは、神経の通り道を広げる「除圧」だけにするか、骨をつなぐ「固定」も加えるかを、何を手がかりに考えるのかをお話しします。
このページでわかること
すべり症とは何か、なぜ狭窄症と一緒に見つかりやすいのか
「ずれている」ことと「ぐらつく」ことは、別のもの
除圧に固定を加えるべきかは、研究の結論が分かれている
私(加藤)が見ているところ:ぐらつきと、椎間関節の向き
ほかの手がかり:クッションの高さ・関節の水・年月による変化
関節を残す除圧のやり方と、主治医に聞いておきたい質問
すべり症と、「ずれ」と「ぐらつき」 すべり症とは・「ずれている」と「ぐらつく」は違う 研究の結論は、分かれている 三つの大きな比較試験・専門家の提言と、日本のガイドライン・医師によって、判断が違うこともある 私が見ているところ 一つ目:ぐらつき・二つ目:椎間関節の向き・研究でわかっていること ほかの手がかりと、除圧のやり方 クッションの高さ・関節の中の水・ぐらつきは、年月で落ち着くこともある・除圧のやり方も関係する 主治医に聞いておきたいこと 三つの質問・よくある質問・次に読むページ・主な参考文献 1. すべり症と、「ずれ」と「ぐらつき」 すべり症とは
背骨は、骨が積み木のように積み重なってできています。年齢とともに、骨と骨のあいだのクッション(椎間板)や、後ろの関節(椎間関節)がすり減ると、上の骨が、下の骨に対して前にずれてくることがあります。これを、変性すべり症といいます。腰の骨の四番目と五番目のあいだに多く、女性に多いのが特徴です。
ずれた分だけ、神経の通り道が狭くなります。ですから、すべり症は、脊柱管狭窄症と一緒に見つかることがとても多いのです。すべり症そのものについては、狭窄症とヘルニア・すべり症の違い のページにもまとめています。
「ずれている」と「ぐらつく」は違う
ここで、大切な区別があります。「ずれている」ことと、「ぐらつく」ことは、別のものです。
ずれているか :立った姿勢の、一枚のレントゲンで分かります
ぐらつくか :前かがみと、後ろにそった姿勢の、二枚のレントゲンを比べて、骨がどれだけ動くかで見ます
上の図は、左から、ふつうの姿勢、前かがみ、後ろにそった姿勢です。ぐらつく方では、前かがみで上の骨がさらに前へすべり、後ろにそると、ずれが小さくなります。
同じ大きさのずれでも、動かないまま落ち着いている人もいれば、姿勢を変えるたびに、ずれが大きくなったり小さくなったりする人もいます。年月がたつと、クッションがつぶれ、骨のふちにトゲ(骨棘)ができて、ずれたまま自然に固まってくることもあります。
除圧だけの手術のあとで問題になりやすいのは、ずれの大きさよりも、このぐらつきのほうだと考えられています。管状の筒を使った除圧を受けた方を調べた研究でも、立った姿勢でのずれの大きさは、その後の経過と関係がなく、姿勢で変わるずれと、関節の水(後で説明します)が、手術の経過がよくなかったことと関係していました。
2. 研究の結論は、分かれている 三つの大きな比較試験
すべり症のある狭窄症で、除圧に固定を加えたほうがよいのか。この問いには、海外で大きな比較試験が行われてきました。結論は、分かれています。
スウェーデンの試験 :すべり症のある方も含めて、固定を加えても、2年後・5年後の結果は変わりませんでした。固定を加えた方は、入院が長くなりました
アメリカの試験 :ぐらつきのない、軽いすべり症の方を対象にした試験です。体の調子の点数は、固定を加えたほうが少し良く、その後の再手術も少ない結果でした。ただし、腰の機能の点数では、はっきりした差はありませんでした
ノルウェーの試験 :すべり症の方を対象に、除圧だけでも、固定を加えた場合に劣らないという結果でした
試験によって、対象の方の状態や、除圧のやり方が少しずつ違います。そのため、「すべり症なら、どちらが正しい」と一言では言えないのです。
専門家の提言と、日本のガイドライン
国際的な専門家グループ(AO Spine)の提言でも、「すべり症のすべての人に当てはまる答えはない。手術の前に、骨がぐらつく徴候があるかを、画像でよく調べて決めるように」とされています。日本の腰部脊柱管狭窄症診療ガイドラインでも、明らかなすべりや不安定性を伴わない狭窄症では、除圧術が有用とされています。
医師によって、判断が違うこともある
つまり、すべり症だから固定、ではなく、一人ひとりの骨の状態を見て決める、ということです。そして、何をどれだけ重く見るかは、医師によって少しずつ違います。カナダの多施設の研究でも、ぐらつきについての外科医の印象と、決まった項目で測った結果とが、食い違うことがあると報告されています。
主治医の説明が、ほかで聞いた話と違っても、どちらかが間違っているとは限りません。大切なのは、なぜそう判断したのか、理由を聞くことです。
3. 私が見ているところ ここからは、私自身が、どこを見て決めているかをお話しします。ほかの先生は、別のところを重く見ることもあります。そのことを、頭に置いて読んでください。
一つ目:ぐらつき
私がまず見るのは、すべりの大きさよりも、ぐらつきです。前かがみと、そった姿勢で、骨がはっきり動く場合は、除圧だけでは、手術のあとにずれが進むことがあります。そのような方には、固定を考えます。
二つ目:椎間関節の向き
もう一つ、私が大切にしているのが、背骨の後ろにある関節、椎間関節(ついかんかんせつ)の向きです。背骨を輪切りにして、上から見てみます。
左右に一つずつ、関節があります。この関節の面が、体の前後の方向に縦に向いていると、上の骨を前から受け止める壁がありません。
上の骨が前にすべると、背骨の後ろの部分ごと前に出て、神経の袋を後ろから押します。輪切りの図の真ん中の部分(椎弓と棘突起)は上の骨、その外側は下の骨です。
除圧の手術では、神経を押している部分を取るために、この関節の内側を少し削ります。関節が縦向きの方では、もともと支えが弱いところを、さらに削ることになります。そのため、除圧のあとに、上の骨がもっとすべってしまうことがあります。神経を十分に広げようとすると、支えが足りなくなる。その両立が難しいのです。
反対に、関節の面が体の横の方向に、壁のように並んでいると、上の骨が前にすべろうとするのを、後ろから受け止めてくれます。しかも、横向きの関節は幅が広いので、除圧で内側を削っても残る部分が多く、支えが残りやすいのです。ですから私は、関節が横向きに近い方では、除圧だけで済ませることに、より自信を持てます。
研究でわかっていること
研究でも、すべり症の方は、関節の向きが縦向きのことが多いと報告されています(16の研究をまとめた解析)。また、すべり症で除圧だけの手術を受けた方を追った研究では、手術のあとにぐらつきが出やすい人の特徴として、姿勢による動きの大きさ、クッションの高さとともに、関節の向きが挙げられています。先ほどの国際的な提言も、これらを手術前に確かめる項目として示しています。ただ、こうした研究の数は、まだ多くありません。
4. ほかの手がかりと、除圧のやり方 クッションの高さ
骨と骨のあいだのクッションの高さが保たれている方は、まだ骨が動く余地があり、ぐらつきやすいと考えられています。反対に、クッションがつぶれて、骨のふちにトゲができている方は、骨が自然に落ち着いていることが多いのです。
関節の中の水
MRIで、椎間関節の中に水がたまって見えることがあります。関節に水がたまっているのは、関節がよく動いている、しるしの一つとされています。
ぐらつきは、年月で落ち着くこともある
ぐらつきは、ずっと同じとは限りません。ぐらつきがあっても、年月とともにクッションが傷んで、骨と骨のあいだが少しずつ狭くなり、ぐらつきがだんだん落ち着いてくる方も、私は経験しています。
こうした手がかりを、一つだけで決めるのではなく、全部を合わせて考えます。
除圧のやり方も関係する
最近は、関節をなるべく残しながら、神経の通り道を広げる方法が増えています。片側から入って反対側まで除圧する方法や、内視鏡を使う方法です。関節を残せれば、そのぶん支えも残ります。
ただ、どこまで関節を残しながら神経を十分に広げられるかは、骨の形によります。関節が縦向きの方では、ここがいちばん難しいところです。方法の違いは 内視鏡の手術と従来の手術 、固定術そのものは 固定術 と 固定術の種類 のページにまとめています。
5. 主治医に聞いておきたいこと 三つの質問
すべり症があると言われて、手術をすすめられたら、次のことを主治医に聞いてみてください。
「私の骨は、ぐらついていますか。前かがみとそった姿勢のレントゲンで、確かめましたか」
「除圧だけにしない理由、あるいは、固定を加える理由は何ですか」
「除圧だけにした場合、あとで、すべりが進む心配はどのくらいありますか」
固定術をすすめられた場合は、その前に、脊髄刺激療法(SCS) という選択肢についても、主治医と話し合ってみる価値があります。ほかの質問の例は 医師への質問リスト にあります。
よくある質問
Q. すべりが大きいほど、固定が必要ですか?
すべりの大きさだけでは決まりません。同じ大きさのずれでも、動かないまま落ち着いている方もいます。大切なのは、姿勢で骨が動くかどうかです。
Q. 除圧だけにして、あとですべりが進んだらどうなりますか?
すべりが進んで、また神経を押すようになった場合は、あらためて固定を加える手術を考えることがあります。そうした心配がどのくらいあるかを、手術の前に主治医に聞いておくと安心です。手術のあとの症状については、手術したのに、また痛い・歩けない のページもご覧ください。
Q. 先生によって言うことが違うのは、なぜですか?
研究の結論が分かれていて、何を重く見るかが医師によって違うためです。どちらかが間違っているとは限りません。理由を聞いたうえで、納得して決めることが大切です。
Q. 固定術には、どんな注意点がありますか?
固定した上下の骨に負担がかかり、年月がたって、となりの骨に問題が出ることがあります。固定術の長期リスク と 隣接椎間障害 のページにまとめています。
※ このページは一般的な情報の提供を目的としています。どの手術が合うかは、画像と症状を見たうえで一人ひとり異なりますので、実際の判断は主治医にご相談ください。
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主な参考文献
日本整形外科学会・日本脊椎脊髄病学会(監修)『腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021(改訂第2版)』南江堂, 2021./英文二次出版: Kawakami M, et al. J Orthop Sci. 2023. PMID 35597732.
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Austevoll IM, et al. "Decompression with or without fusion in degenerative lumbar spondylolisthesis." N Engl J Med. 2021. PMID 34347953.
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利益相反(COI)について
この記事の監修医は、脊髄刺激療法(SCS)を実施する脊椎外科医です。SCSの機器メーカー(Medtronic社、Boston Scientific社)とアドバイザリー関係があり、SCSの診療を行うことによる経済的な利益があります。また本サイトは、日本メドトロニック株式会社から疾患啓発のスポンサーシップ(バナー広告)を受けています。協賛企業が記事の内容を指示・承認することはなく、特定の製品名・機種名は掲載していません。治療の選択は、SCS以外の方法も含めて、主治医とご相談ください。
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