すべり症の手術 — 除圧だけか、固定もするか

すべり症があっても、それだけで固定が必要とは限りません。「ずれ」と「ぐらつき」の違い、結論が分かれる研究、椎間関節の向き、主治医に聞きたい三つの質問。

上の骨が前にずれた背骨と、ずれが姿勢で変わる様子を、横から見た図

「MRIで、すべり症もあると言われた」「すべっていたら、固定の手術をしないといけないの?」。脊柱管狭窄症で手術をすすめられた方から、よくいただく質問です。すべり症があるというだけで、固定が必要になるとは限りません。このページでは、神経の通り道を広げる「除圧」だけにするか、骨をつなぐ「固定」も加えるかを、何を手がかりに考えるのかをお話しします。

このページでわかること

  • すべり症とは何か、なぜ狭窄症と一緒に見つかりやすいのか
  • 「ずれている」ことと「ぐらつく」ことは、別のもの
  • 除圧に固定を加えるべきかは、研究の結論が分かれている
  • 私(加藤)が見ているところ:ぐらつきと、椎間関節の向き
  • ほかの手がかり:クッションの高さ・関節の水・年月による変化
  • 関節を残す除圧のやり方と、主治医に聞いておきたい質問

1. すべり症と、「ずれ」と「ぐらつき」

すべり症とは

背骨は、骨が積み木のように積み重なってできています。年齢とともに、骨と骨のあいだのクッション(椎間板)や、後ろの関節(椎間関節)がすり減ると、上の骨が、下の骨に対して前にずれてくることがあります。これを、変性すべり症といいます。腰の骨の四番目と五番目のあいだに多く、女性に多いのが特徴です。

ずれた分だけ、神経の通り道が狭くなります。ですから、すべり症は、脊柱管狭窄症と一緒に見つかることがとても多いのです。すべり症そのものについては、狭窄症とヘルニア・すべり症の違い のページにもまとめています。

「ずれている」と「ぐらつく」は違う

ここで、大切な区別があります。「ずれている」ことと、「ぐらつく」ことは、別のものです。

  • ずれているか:立った姿勢の、一枚のレントゲンで分かります
  • ぐらつくか:前かがみと、後ろにそった姿勢の、二枚のレントゲンを比べて、骨がどれだけ動くかで見ます

上の図は、左から、ふつうの姿勢、前かがみ、後ろにそった姿勢です。ぐらつく方では、前かがみで上の骨がさらに前へすべり、後ろにそると、ずれが小さくなります。

同じ大きさのずれでも、動かないまま落ち着いている人もいれば、姿勢を変えるたびに、ずれが大きくなったり小さくなったりする人もいます。年月がたつと、クッションがつぶれ、骨のふちにトゲ(骨棘)ができて、ずれたまま自然に固まってくることもあります。

除圧だけの手術のあとで問題になりやすいのは、ずれの大きさよりも、このぐらつきのほうだと考えられています。管状の筒を使った除圧を受けた方を調べた研究でも、立った姿勢でのずれの大きさは、その後の経過と関係がなく、姿勢で変わるずれと、関節の水(後で説明します)が、手術の経過がよくなかったことと関係していました。


2. 研究の結論は、分かれている

三つの大きな比較試験

すべり症のある狭窄症で、除圧に固定を加えたほうがよいのか。この問いには、海外で大きな比較試験が行われてきました。結論は、分かれています。

  • スウェーデンの試験:すべり症のある方も含めて、固定を加えても、2年後・5年後の結果は変わりませんでした。固定を加えた方は、入院が長くなりました
  • アメリカの試験:ぐらつきのない、軽いすべり症の方を対象にした試験です。体の調子の点数は、固定を加えたほうが少し良く、その後の再手術も少ない結果でした。ただし、腰の機能の点数では、はっきりした差はありませんでした
  • ノルウェーの試験:すべり症の方を対象に、除圧だけでも、固定を加えた場合に劣らないという結果でした

試験によって、対象の方の状態や、除圧のやり方が少しずつ違います。そのため、「すべり症なら、どちらが正しい」と一言では言えないのです。

専門家の提言と、日本のガイドライン

国際的な専門家グループ(AO Spine)の提言でも、「すべり症のすべての人に当てはまる答えはない。手術の前に、骨がぐらつく徴候があるかを、画像でよく調べて決めるように」とされています。日本の腰部脊柱管狭窄症診療ガイドラインでも、明らかなすべりや不安定性を伴わない狭窄症では、除圧術が有用とされています。

医師によって、判断が違うこともある

つまり、すべり症だから固定、ではなく、一人ひとりの骨の状態を見て決める、ということです。そして、何をどれだけ重く見るかは、医師によって少しずつ違います。カナダの多施設の研究でも、ぐらつきについての外科医の印象と、決まった項目で測った結果とが、食い違うことがあると報告されています。

主治医の説明が、ほかで聞いた話と違っても、どちらかが間違っているとは限りません。大切なのは、なぜそう判断したのか、理由を聞くことです。


3. 私が見ているところ

ここからは、私自身が、どこを見て決めているかをお話しします。ほかの先生は、別のところを重く見ることもあります。そのことを、頭に置いて読んでください。

一つ目:ぐらつき

私がまず見るのは、すべりの大きさよりも、ぐらつきです。前かがみと、そった姿勢で、骨がはっきり動く場合は、除圧だけでは、手術のあとにずれが進むことがあります。そのような方には、固定を考えます。

二つ目:椎間関節の向き

もう一つ、私が大切にしているのが、背骨の後ろにある関節、椎間関節(ついかんかんせつ)の向きです。背骨を輪切りにして、上から見てみます。

縦向きに近い椎間関節。背骨の輪切りを上から見た図で、左右の関節の面が体の前後の方向に向いている

左右に一つずつ、関節があります。この関節の面が、体の前後の方向に縦に向いていると、上の骨を前から受け止める壁がありません。

上の骨が前にすべったときの輪切りの図。椎弓と棘突起が前に出て、神経の袋を後ろから押している

上の骨が前にすべると、背骨の後ろの部分ごと前に出て、神経の袋を後ろから押します。輪切りの図の真ん中の部分(椎弓と棘突起)は上の骨、その外側は下の骨です。

除圧の手術では、神経を押している部分を取るために、この関節の内側を少し削ります。関節が縦向きの方では、もともと支えが弱いところを、さらに削ることになります。そのため、除圧のあとに、上の骨がもっとすべってしまうことがあります。神経を十分に広げようとすると、支えが足りなくなる。その両立が難しいのです。

横向きに近い椎間関節。関節の面が体の横の方向に、壁のように並んでいる

反対に、関節の面が体の横の方向に、壁のように並んでいると、上の骨が前にすべろうとするのを、後ろから受け止めてくれます。しかも、横向きの関節は幅が広いので、除圧で内側を削っても残る部分が多く、支えが残りやすいのです。ですから私は、関節が横向きに近い方では、除圧だけで済ませることに、より自信を持てます。

研究でわかっていること

研究でも、すべり症の方は、関節の向きが縦向きのことが多いと報告されています(16の研究をまとめた解析)。また、すべり症で除圧だけの手術を受けた方を追った研究では、手術のあとにぐらつきが出やすい人の特徴として、姿勢による動きの大きさ、クッションの高さとともに、関節の向きが挙げられています。先ほどの国際的な提言も、これらを手術前に確かめる項目として示しています。ただ、こうした研究の数は、まだ多くありません。


4. ほかの手がかりと、除圧のやり方

クッションの高さ

骨と骨のあいだのクッションの高さが保たれている方は、まだ骨が動く余地があり、ぐらつきやすいと考えられています。反対に、クッションがつぶれて、骨のふちにトゲができている方は、骨が自然に落ち着いていることが多いのです。

関節の中の水

MRIで、椎間関節の中に水がたまって見えることがあります。関節に水がたまっているのは、関節がよく動いている、しるしの一つとされています。

ぐらつきは、年月で落ち着くこともある

ぐらつきは、ずっと同じとは限りません。ぐらつきがあっても、年月とともにクッションが傷んで、骨と骨のあいだが少しずつ狭くなり、ぐらつきがだんだん落ち着いてくる方も、私は経験しています。

こうした手がかりを、一つだけで決めるのではなく、全部を合わせて考えます。

除圧のやり方も関係する

最近は、関節をなるべく残しながら、神経の通り道を広げる方法が増えています。片側から入って反対側まで除圧する方法や、内視鏡を使う方法です。関節を残せれば、そのぶん支えも残ります。

ただ、どこまで関節を残しながら神経を十分に広げられるかは、骨の形によります。関節が縦向きの方では、ここがいちばん難しいところです。方法の違いは 内視鏡の手術と従来の手術、固定術そのものは 固定術 と 固定術の種類 のページにまとめています。


5. 主治医に聞いておきたいこと

三つの質問

すべり症があると言われて、手術をすすめられたら、次のことを主治医に聞いてみてください。

  1. 「私の骨は、ぐらついていますか。前かがみとそった姿勢のレントゲンで、確かめましたか」
  2. 「除圧だけにしない理由、あるいは、固定を加える理由は何ですか」
  3. 「除圧だけにした場合、あとで、すべりが進む心配はどのくらいありますか」

固定術をすすめられた場合は、その前に、脊髄刺激療法(SCS) という選択肢についても、主治医と話し合ってみる価値があります。ほかの質問の例は 医師への質問リスト にあります。

よくある質問

Q. すべりが大きいほど、固定が必要ですか? すべりの大きさだけでは決まりません。同じ大きさのずれでも、動かないまま落ち着いている方もいます。大切なのは、姿勢で骨が動くかどうかです。

Q. 除圧だけにして、あとですべりが進んだらどうなりますか? すべりが進んで、また神経を押すようになった場合は、あらためて固定を加える手術を考えることがあります。そうした心配がどのくらいあるかを、手術の前に主治医に聞いておくと安心です。手術のあとの症状については、手術したのに、また痛い・歩けない のページもご覧ください。

Q. 先生によって言うことが違うのは、なぜですか? 研究の結論が分かれていて、何を重く見るかが医師によって違うためです。どちらかが間違っているとは限りません。理由を聞いたうえで、納得して決めることが大切です。

Q. 固定術には、どんな注意点がありますか? 固定した上下の骨に負担がかかり、年月がたって、となりの骨に問題が出ることがあります。固定術の長期リスク と 隣接椎間障害 のページにまとめています。


※ このページは一般的な情報の提供を目的としています。どの手術が合うかは、画像と症状を見たうえで一人ひとり異なりますので、実際の判断は主治医にご相談ください。


次に読むページ


主な参考文献

  1. 日本整形外科学会・日本脊椎脊髄病学会(監修)『腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021(改訂第2版)』南江堂, 2021./英文二次出版: Kawakami M, et al. J Orthop Sci. 2023. PMID 35597732.
  2. Försth P, et al. "A randomized, controlled trial of fusion surgery for lumbar spinal stenosis." N Engl J Med. 2016. PMID 27074066.
  3. Ghogawala Z, et al. "Laminectomy plus fusion versus laminectomy alone for lumbar spondylolisthesis." N Engl J Med. 2016. PMID 27074067.
  4. Austevoll IM, et al. "Decompression with or without fusion in degenerative lumbar spondylolisthesis." N Engl J Med. 2021. PMID 34347953.
  5. Martin CT, et al. "AO Spine clinical practice recommendations for the surgical management of degenerative spondylolisthesis: when to decompress alone and when to fuse." Global Spine J. 2025. PMID 40498575.
  6. Blumenthal C, et al. "Radiographic predictors of delayed instability following decompression without fusion for degenerative grade I lumbar spondylolisthesis." J Neurosurg Spine. 2013. PMID 23373567.
  7. Suarez A, et al. "Lumbar facet joint morphology and degenerative lumbar spondylolisthesis: a systematic review and meta-analysis." Global Spine J. 2026. PMID 42893425.
  8. Simmonds AM, et al. "Defining the inherent stability of degenerative spondylolisthesis: a systematic review." J Neurosurg Spine. 2015. PMID 25978079.
  9. MacLean MA, et al. "Evaluating instability in degenerative lumbar spondylolisthesis: objective variables versus surgeon impressions." JBJS Open Access. 2022. PMID 36420353.
  10. Barghi A, et al. "Risk factors for failure after lumbar tubular microdecompression without stabilization." J Am Acad Orthop Surg. 2026. PMID 40720798.