脊髄刺激療法(SCS)は、なぜ痛みを和らげる?

痛みが脳に届く道と、脊髄の入り口にある「門」。SCSが電気で門を閉めるしくみ、ビリビリを感じない新しい刺激、感じなくても止まっていないこと、効き目の見かたを解説します。

背中に電気を流すと、なぜ脚の痛みが楽になるのでしょうか。「しびれさせて、ごまかしているだけでは」と思う方もいらっしゃいます。実は、私たちの体には、もともと痛みを弱めるしくみがあります。SCSは、そのしくみを使う治療です。


このページでわかること

  • 痛みが、脊髄を通って脳に届くまでの道すじ
  • 体にもともとある、痛みを弱める「門」(ゲートコントロール理論)
  • SCSが電気でその門を閉め、ビリビリの感覚が生まれるしくみ
  • ビリビリを感じない新しい刺激が、どう働くと考えられているか
  • 刺激を感じなくても止まっていないこと、効き目の見かた
  • SCSにできること、できないこと

1. 痛みが脳に届く道と、体にもともとある「門」

痛みを感じるのは、脳

足をぶつけると、「痛い」と感じますね。このとき、痛みを感じているのは、足ではありません。

足の神経が、「ぶつかった」という知らせを、背骨の中の脊髄へ送ります。知らせは脊髄を上って、脳に届きます。そこで、はじめて「痛い」と感じます。

腰部脊柱管狭窄症 の脚の痛みも、同じ道を通ります。腰で神経が押されると、その知らせが、脊髄を通って脳へ届きます。痛みの種類と、長引くしくみは なぜ痛いのか にまとめてあります。

ぶつけた所を、さすると楽になる

脊髄の入り口には、知らせを通すかどうかを決める、門のようなしくみがあります。

足をぶつけたとき、思わずその場所をさすりますね。さすると、少し楽になります。これには、理由があります。

知らせ 通る道 門への働き
痛みの知らせ 細い神経 門を通って、脳へ上ろうとする
「触れた」知らせ 太い神経 門番に、門を閉めさせる

太い神経の知らせが届くと、脊髄の中の門番が、門を少し閉めます。すると、痛みの知らせが、脳へ通りにくくなります。

脊髄の入り口の門:太い道の「触れた」知らせが門番に届き、門が閉まって痛みの知らせが止まる

この考え方を、ゲートコントロール理論と呼びます。ゲートは、門という意味です。今から六十年ほど前に提唱され、SCSという治療が生まれるきっかけになりました。


2. SCSは、電気で門を閉めたままにする

電極は、脊髄を包む膜の外

SCSでは、背骨の中の、脊髄を包む膜(硬膜)の外側に、細い電極を置きます。脊髄そのものに刺したり、触れたりすることはありません。

電極は脊髄を包む膜の外に置く。電気で太い道を動かし、門を閉めたままにする

電極からのごく弱い電気は、脊髄の背中側を縦に走る、太い神経の束を動かします。さすったときと同じ知らせが、絶えず届くので、門が閉まった状態が続きます。

機器の大きさや、植込みまでの流れは 脊髄刺激療法(SCS) をご覧ください。

ビリビリの正体

昔からの刺激の設定では、痛む場所に、ビリビリとした感覚が広がります。

これは、電気で動いた太い神経の知らせが、門番だけでなく、脳にも届いた感覚です。痛みの上に、心地よい別の感覚が重なるイメージです。

「ビリビリが、痛む場所に重なっていますか」

この設定では、ビリビリが痛む場所にきちんと重なると、痛みが和らぎやすくなります。

ですから、お試し(トライアル)や調整のときには、「ビリビリは、どこに感じますか」「痛む場所に重なっていますか」と、何度もお聞きします。電極のどの部分から電気を出すかを変えると、ビリビリの場所も変わります。


3. ビリビリを感じない、新しい刺激

今は、こちらで始める方が多い

ここ十年ほどで、ビリビリを感じない刺激の方式が、広く使われるようになりました。刺激の速さやリズムを工夫した、いくつかの方式があります。最近では、こちらで始める方が多くなっています。

敏感になった脊髄を、落ち着かせる

痛みが長く続くと、門のまわりそのものが、敏感になっていることがあります。小さな知らせでも、大きく通してしまう状態です。

新しい刺激は、門とは別の場所、この敏感になった脊髄の中を落ち着かせると考えられています。脊髄の中で神経を支えている細胞や、痛みを抑える物質、脳から下りてきて痛みを抑えるしくみなどが、研究されています。

新しい刺激では、ビリビリの知らせは脳へ届かず、敏感になった所を落ち着かせると考えられている(研究中)

くわしいしくみは、まだ研究が続いています。はっきり言えるのは、ビリビリで痛みを覆う昔の設定とは、働き方が違うということです。

方式は、主治医と選ぶ

ビリビリを感じる設定と、感じない設定のどちらが合うかは、人によって違います。機種によっては、両方を切り替えて使えます。お試しの期間や、植込み後の調整で、合う方を一緒に探します。

加藤からひとこと 「ビリビリがあるほうが、効いている気がして安心する」という方もいます。感覚の好みも、遠慮なく伝えてください。


4. 感じなくても、止まっているわけではありません

感じないことは、効いていないことではない

ビリビリを感じない設定では、刺激が入っていても、何も感じません。そのため、「感じないから、動いていないのでは」と心配になる方がいます。

でも、感じないことは、効いていないことではありません。刺激が入っているかは、多くの機種で、リモコンの表示で確かめられます。

効き目は、生活で見る

効いているかどうかは、ビリビリではなく、生活の変化で見てください。

見るところ 書きとめること
歩ける距離 休まずに歩ける距離、買い物や散歩の様子
夜の眠り 痛みで目が覚める回数
痛み止めの量 飲んだ量と回数

手帳に書いておくと、調整の外来で伝えやすくなります。調整で何をするかは SCSの刺激の調整 にまとめてあります。

SCSにできること、できないこと

SCSは、神経を切ったり、壊したりする治療ではありません。電気を止めれば、刺激も止まります。

一方で、狭くなった神経の通り道を、広げる治療でもありません。痛みの知らせを、門で弱める治療です。

そのため、次のような変化は、別に考える必要があります。

  • 脚に力が入らない
  • 尿が出にくい、もれる

このような変化があれば、SCSの有無にかかわらず、すぐに主治医に伝えてください(急いで受診すべきサイン)。

補足:SCSの説明で「血流がよくなる」と書かれていることがあります。これは主に、血の流れが悪いことで起こる痛みでの話です。狭窄症の脚の痛みでは、ここでお話しした「門」と「敏感になった所」のしくみが中心と考えられています。


5. まとめと、よくあるご質問

まとめ

  • 痛みは、脊髄を通って脳に届き、脳で感じます
  • 脊髄の入り口には、痛みの知らせを弱める「門」があります
  • SCSは、電気で太い神経を動かし、門を閉めたままにします。ビリビリは、その知らせが脳に届いた感覚です
  • ビリビリを感じない新しい刺激は、敏感になった脊髄を落ち着かせると考えられています(研究中)
  • 刺激を感じなくても、止まっているわけではありません。効き目は、生活の変化で見ます
  • SCSは痛みを和らげる治療で、狭くなった通り道を広げる治療ではありません

よくあるご質問

Q. 電気で神経をしびれさせて、ごまかしているだけではないのですか? SCSは、神経を麻痺させる治療ではありません。体にもともとある、痛みを弱めるしくみを使う治療です。昔からの設定のビリビリも、神経がしびれているのではなく、別の感覚の知らせが脳に届いているものです。

Q. ビリビリを何も感じません。故障ではありませんか? ビリビリを感じない設定なら、感じないのがふつうです。刺激が入っているかは、多くの機種でリモコンの表示で確かめられます。表示に異常がある、急に痛みが戻った、という場合は、病院に連絡してください。

Q. 電気で、脊髄や神経が傷むことはありませんか? 電極は脊髄を包む膜の外に置かれ、脊髄そのものには触れません。流れる電気も、ごく弱いものです。ただし、体の中に機器を入れる治療なので、感染や機器のトラブルなどのリスクはあります。くわしくは 脊髄刺激療法(SCS) をご覧ください。

Q. SCSで、狭窄症そのものは治りますか? いいえ。SCSは痛みを和らげる治療で、狭くなった神経の通り道を広げるものではありません。手術との違いは 治療の全体像 を参考にしてください。

主治医に聞いてみてください

  1. 「私の痛みは、SCSの門で弱めやすい種類の痛みですか」
  2. 「ビリビリを感じる設定と、感じない設定、私にはどちらが合いそうですか」
  3. 「効いているかどうかは、何を目安に見ればいいですか」

※ このページは一般的な情報の提供を目的としています。SCSが効くしくみには、まだ研究中の部分があります。実際の治療については、主治医にご相談ください。


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主な参考文献

  1. Melzack R, Wall PD. "Pain mechanisms: a new theory." Science. 1965;150(3699):971-9. PMID 5320816.(ゲートコントロール理論の原著)
  2. Linderoth B, Foreman RD. "Conventional and Novel Spinal Stimulation Algorithms: Hypothetical Mechanisms of Action and Comments on Outcomes." Neuromodulation. 2017;20(6):525-533. PMID 28568898.(昔からの刺激と新しい刺激の、考えられている働き方の違い)
  3. Sdrulla AD, Guan Y, Raja SN. "Spinal Cord Stimulation: Clinical Efficacy and Potential Mechanisms." Pain Pract. 2018;18(8):1048-1067. PMID 29526043.(脊髄の中の細胞・物質・脳から下りてくるしくみの関与)
  4. Caylor J, et al. "Spinal cord stimulation in chronic pain: evidence and theory for mechanisms of action." Bioelectron Med. 2019;5. doi:10.1186/s42234-019-0023-1. PMID 31435499.