なぜ痛いのか

痛みが生じるメカニズムと、慢性痛の特徴について解説します。

痛みのしくみがわかると、治療ごとに何をねらっているのかも見えてきます。


このページでわかること

  • 痛みはどうやって感じるのか(体・心・考え方の3つの要素)
  • 「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」:2種類の痛みの違い
  • 神経が圧迫されると何が起こるか
  • 腰の痛みと脚の痛みの違い
  • 歩くと痛くなる理由(間欠跛行(かんけつはこう))
  • 慢性疼痛とは何か、痛みの悪循環
  • 痛みに対するよくある誤解

1. 痛みのしくみと2種類の痛み

痛みが脳に届くまで

痛みは「信号」

痛みは、体からの警告信号です。「ここに問題がありますよ」と脳に知らせるために、神経が電気信号を送っています。

痛みは体だけの問題ではない

痛みには、3つの要素があることがわかっています。

要素 内容 例
感覚 体が感じる痛みの信号そのもの 「ズキズキする」「ピリピリする」
情動(気持ち) 痛みに伴う不快な感情 不安、イライラ、落ち込み
認知(考え方) 痛みをどう受け止めるか 「もう治らないのでは」「動くと悪化する」

痛みの強さは、体の状態だけでは決まりません。気持ちの状態や、痛みに対する考え方によっても変わります。

これは「気の持ちよう」という意味ではありません。3つの要素は、どれも脳の中で実際に起きている反応です。そのため、体の治療に加えて、痛みとどう付き合うかも治療の一部になります。


2種類の痛み:侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛

2種類の痛みの比較

痛みは大きく2つのタイプに分かれます。タイプによって使う薬が違います。

侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)

体のどこかが傷ついたり、炎症が起きたりしたときに感じる痛みです。とがった物や熱い物に触れたときの痛みがこれで、反射的に手を引く防御反応につながります。体からの警告信号として働く痛みです。

特徴 内容
どんな痛み? ズキズキ、ジンジン、重い痛み
原因 骨折、関節の炎症、筋肉の痛みなど
よく効く薬 ロキソニンなどの消炎鎮痛薬(NSAIDs)
特徴 体を守るための「警告」の痛み

神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)

神経そのものが傷ついたり、異常を起こしたりして生じる痛みです。

特徴 内容
どんな痛み? ビリビリ、電気が走るような、焼けるような痛み
伴う症状 しびれ、感覚が鈍い、触ると痛い
よく効く薬 タリージェ、リリカ、サインバルタなど(普通の痛み止めは効きにくい)
特徴 神経の「故障」による痛み

狭窄症ではどちらの痛み?

腰部脊柱管狭窄症では、両方のタイプの痛みが混ざっていることがよくあります。

そのため、薬が何種類も必要になることがあります。腰の痛みには消炎鎮痛薬、脚のしびれや痛みには神経の薬、というように、痛みのタイプに合わせて使い分けます。「薬が多い」と感じるかもしれませんが、痛みごとに効く薬が違うためです。


2. 神経の圧迫と症状の出かた

神経が圧迫されると何が起こるか

神経は「電線」のようなもの

神経は、体中に張り巡らされた電線のようなものです。脳からの命令を体に伝え、体からの感覚を脳に伝えています。

圧迫されると…

神経が圧迫されると、電線が潰されたような状態になり、信号が乱れます。すると次のようなことが起こります。

症状 何が起きているか
痛み 神経が「問題がある!」という信号を出している
しびれ 感覚の信号がうまく伝わらない
感覚の鈍さ 触っても感じにくい
筋力低下 動けという信号がうまく伝わらない

腰の痛みと脚の痛み:なぜ両方あるのか

腰が痛い理由

腰椎そのもの(骨、椎間板、関節、筋肉)に問題があると、腰が痛くなります。問題のある場所が、直接痛みを出しているパターンです。

脚が痛い・しびれる理由

脚の痛みやしびれは、そうではありません。脚そのものに問題があるわけではないのです。

腰の神経は、脚につながっています。

L4/L5/S1神経の分布領域

そのため、腰で神経が圧迫されていても、症状は脚に出ます。これを「放散痛(ほうさんつう)」や「関連痛」と呼びます。

どの神経が圧迫されるかで、症状の場所が違う

圧迫される神経 症状が出やすい場所
L4神経根 太ももの前側、膝の内側
L5神経根 太ももの外側、すねの外側、足の甲、親指
S1神経根 ふくらはぎ、足の裏、小指側

医師は、症状の出ている場所から、どの神経が圧迫されているかを推測します。


歩くと痛くなる理由:間欠跛行

間欠跛行(かんけつはこう)とは

狭窄症でいちばん特徴的な症状が、間欠跛行です。

歩いていると脚が痛くなったり、しびれたりして歩けなくなる。少し休むと(特に前かがみになると)楽になり、また歩ける。これを繰り返す状態を、間欠跛行と呼びます。

なぜ起こるのか

立っているときや歩いているとき、腰は反る方向に動きます。

腰が反ると、黄色靭帯(おうしょくじんたい)がたわみ、脊柱管がさらに狭くなります。神経への圧迫が強まり、症状が出ます。

歩行時の痛みの進行と脊柱管の変化 身体を伸ばすと神経が圧迫されて坐骨神経痛が出現しますが、前かがみになると神経の圧迫が緩和されて痛みが落ち着きます。

前かがみになると楽な理由

前かがみになると、腰が丸まります。腰が丸まると、黄色靭帯が引っ張られて薄くなり、脊柱管が広がります。神経への圧迫が和らぎ、楽になります。

狭窄症の方に次のような特徴があるのは、どれも前かがみの姿勢で脊柱管が広がるからです。

  • 買い物カートを押していると楽
  • 自転車はいくらでも乗れる
  • 椅子に座ると楽

3. 慢性疼痛とは

痛みが長く続くと…

痛みは本来「警告信号」なので、問題が解決すれば消えるはずです。

ところが、痛みが3ヶ月以上続くと、慢性疼痛と呼ばれる状態になることがあります。日本の全国調査では、成人の約15%が、腰や首、肩、膝などの慢性の痛みを抱えていました。[1]

急性の痛みから慢性の痛みへ:神経の変化

慢性疼痛では、神経のシステムそのものが段階的に変わっていきます。

慢性疼痛は「気のせい」でも「我慢が足りない」のでもありません。神経の仕組みそのものが変わってしまった状態です。

「我慢できないほどの痛みではないから」と、鎮痛薬を飲まない方がいます。いま飲むと本当に痛いときに効きが悪くなる、という誤った思い込みや、鎮痛薬の副作用への心配が理由のことが多いようです。自然に痛みがおさまればよいのですが、腰部脊柱管狭窄症のように痛みが続く病気では、我慢しているうちに神経の感作が進み、「我慢できない痛み」になってしまいます。いったん慢性疼痛になると、治療も難しくなります。早いうちに適切な治療を受けてください。

体には痛みを抑える力がある

私たちの体には、痛みを自分で抑えるしくみが備わっています。

脳幹から脊髄に向かってセロトニンやノルアドレナリンという物質が送られ、痛みの信号にブレーキをかけています。

ところが慢性疼痛が続くと、このブレーキ(痛みを抑える力)が弱くなったり、逆に痛みを強めてしまったりすることがあります。

サインバルタ(デュロキセチン)、トラムセット、ノイロトロピンなどの薬には、この「体のブレーキ」を強くする作用があります。普通の痛み止めとは違うしくみで痛みを和らげるため、普通の痛み止めでは抑えにくい痛みにも効果が期待できます。

痛みの悪循環

痛みの悪循環:痛み → 不安・恐怖 → 活動を避ける → 筋力・体力の低下 → さらに強い痛み → 気分の落ち込み・不眠 → また痛み、とめぐる

慢性の痛みは、悪循環に陥りやすいことがわかっています。高齢の方では、ここに老化による変化が加わります。

加わる要因 影響
筋力低下(サルコペニア) 体を支える力が弱まり痛みが増す
バランス低下 転倒のリスクが高まる
骨粗鬆症 骨折しやすくなる
食欲低下 栄養不足で回復力が落ちる

治療の目標は、この悪循環を断ち切ることです。

  • 痛みを和らげる(薬物療法、ブロック注射、SCSなど)
  • ADL(日常生活動作)を改善する(リハビリ、運動療法)
  • QOL(生活の質)を取り戻す(できることを増やす)

痛みについてのよくある誤解

よく聞く思い込みと、実際のところを並べました。

よくある誤解 正しい理解
「どこかが傷んでいるから痛い」 組織の損傷がなくても痛みは起こり得ます
「レントゲンやMRIの異常が痛みの原因」 画像検査の異常と痛みが一致しないことはよくあります
「動くのは危険、安静が大切」 適度に動くことは回復に役立ちます
「我慢できる痛みは放っておいていい」 軽い痛みでも放置すると慢性化する可能性があります
「痛み止めは体に悪い」 適切に使えば、痛みの悪循環を防ぐ大切な治療です

痛み止めは、火事に例えると消火器のようなものです。ぼや(小さな火)なら消火器で消せますが、大火事になると消火器では追いつきません。痛みも、早いうちに手を打つほうが抑えやすくなります。飲むタイミングは、処方した医師や薬剤師に確認してください。

消火器のたとえ:上は小さな火と消火器、下は「我慢」しているあいだに大きくなった火と消火器


4. 治療の考え方・まとめ・医師への質問

痛みの治療の考え方

それぞれの治療は、痛みの伝わり方のどこかに働きかけています。

治療 何をしているか どちらの痛みに?
消炎鎮痛薬(NSAIDs) 炎症を抑え、痛み信号を減らす 主に侵害受容性疼痛
神経の薬(タリージェ等) 神経の異常な興奮を抑える 神経障害性疼痛
体のブレーキを強める薬(サインバルタ等) 脳から脊髄への痛み抑制を強化 慢性疼痛・神経障害性疼痛
神経ブロック注射 特定の神経の信号を一時的に止める 両方
手術(除圧) 神経への物理的な圧迫を取り除く 圧迫が原因の痛み
脊髄刺激療法(SCS) 脊髄に電気刺激を与え、痛み信号を脳に届きにくくする 神経障害性疼痛・慢性疼痛

まとめ

ポイント 内容
痛みは3つの要素 体の感覚だけでなく、気持ちや考え方も痛みに影響する
2種類の痛み 侵害受容性(炎症の痛み)と神経障害性(神経の故障の痛み)がある
脚の症状 腰で神経が圧迫されると、その先の脚に症状が出る
間欠跛行 歩くと脊柱管が狭くなり症状が出る。前かがみで楽になる
慢性疼痛 神経システム自体が変化し、痛みの悪循環に陥りやすい
早めの治療 早いうちに痛みに対処すると、慢性化を防ぎやすい
治療 痛みのタイプに合わせて、薬も使い分ける

医師への質問

診察のときに、こんな質問をしてみてください。

  1. 「私の痛みは侵害受容性疼痛ですか、神経障害性疼痛ですか?」

    • 痛みのタイプによって使う薬が変わります。タイプがわかると、薬の意味も理解できます
  2. 「私の脚の症状から、どの神経が圧迫されていると考えられますか?」

    • L4、L5、S1のどの神経根が影響を受けているか確認できます
  3. 「私の痛みは慢性疼痛の段階に進んでいますか?」

    • 慢性化していれば、神経の薬など追加の治療が必要になることがあります
  4. 「痛みの悪循環に陥っていませんか? 何に気をつけるべきですか?」

    • 活動量の低下や気持ちの落ち込みなど、悪循環のサインを確認できます
  5. 「現在の痛みの状態で、どの治療が適していますか?」

    • 痛みのメカニズムに基づいて、合う治療の選択肢を確認できます

痛む場所やしびれの範囲を図に描いて見せると、医師は神経の圧迫部位を絞り込みやすくなります。「ビリビリする」「電気が走る」といった言い方は、神経障害性疼痛のサインです。痛みの場所だけでなく、どんな痛みかも伝えてください。

当サイトの「痛みの記録」(無料・登録不要)では、痛みやしびれの部位と、腰の痛み・脚の痛み・脚のしびれの程度を10段階で記録できます。医師に処方された薬は、お薬手帳から自動で取り込めます。鎮痛薬を飲む前と後の痛みの変化を記録しておけば、どの鎮痛薬が自分に合っているかを振り返れます。薬だけでなく、ブロックや運動も記録できるので、それぞれの治療効果を医師に見せることもできます。

次に読む

→ 検査と診断:痛みの原因を突き止めるための検査について

→ 治療の全体像:痛みのタイプに応じた治療の選択肢を確認します

→ 薬物療法:痛みの種類に合わせた薬の使い分けを解説します

→ SCSと心の準備:痛みの悪循環や破局的思考への対処法


このページは医学的に正確な情報を提供していますが、個別の診断・治療については医師にご相談ください。

出典
  1. Nakamura M, Nishiwaki Y, Ushida T, Toyama Y. Prevalence and characteristics of chronic musculoskeletal pain in Japan. *J Orthop Sci*. 2011;16(4):424-432. PMID: 21678085 — 全国から無作為に選んだ18歳以上11,507人への郵送調査。慢性の筋骨格系の痛みは15.4%で、30〜50代に多かった。