腰が前に曲がると、なぜ腰が痛い?

背骨の「S」の字と、体が前に傾くと腰が痛む理由。前かがみの二つの原因(痛みを避ける前かがみと骨の変形)、長い固定の手術、その前にSCSを考えるという選択肢を解説します。

腰が前に曲がってきて、台所に立っているだけで腰がだるい。「年のせいだから」とあきらめる前に、知っておいてほしいことがあります。腰が前に曲がる理由は大きく二つあり、どちらなのかで、治療の考え方がかなり変わります。


このページでわかること

  • 正常な背骨の形(生理的弯曲)と、横から見たときの「頭は骨盤の真上」
  • 体が前に傾くと、なぜ腰の筋肉が疲れて痛むのか
  • 腰が前に曲がる二つの理由:痛みを避けるための前かがみと、骨そのものの変形
  • 骨の変形を手術で起こす場合の、長い固定と骨切り
  • 長い固定の前に、脊髄刺激療法(SCS)を考えるという選択肢(加藤の見解)

1. ゆるやかな「S」の字を描く背骨

低い台で作業すると、腰が痛くなる

低い流し台での洗い物や、畑の草取り。しばらく続けると、腰が痛くなった経験はありませんか。

このとき、体は前かがみになり、本来の背骨のバランスが崩れています。腰の背筋(せすじ)にとっては、かなり負担の大きい姿勢です。筋肉は、短い時間ならこの姿勢を支えられます。ところが、これが一日中、毎日になると、筋肉はずっと疲れたままになります。疲れからくる腰の痛みを、いつも感じることになります。

正常な背骨の形

背骨の全体像:頚椎7個・胸椎12個・腰椎5個・仙骨

背骨は、まっすぐな一本の棒ではありません。横から見ると、ゆるやかな「S」の字を描いています。これを 生理的弯曲(せいりてきわんきょく) と呼びます。

場所 カーブ 呼び名
首 前にそる 頚椎前弯(けいついぜんわん)
背中 後ろに丸い 胸椎後弯(きょうついこうわん)
腰 前にそる 腰椎前弯(ようついぜんわん)

三つのカーブが打ち消しあうことで、横から見ると、頭が骨盤(仙骨)の真上に乗ります。重い頭を骨の積み重ねで支えているので、筋肉はあまり働かなくてすみます。

体が前に傾くと

重い買い物袋を想像してください。体にぴったりつけて持てば、それほど重くありません。でも、腕をのばして体から離して持つと、同じ袋が、ずっと重く感じます。

頭と上半身が前に出た姿勢は、この「腕をのばして持っている」状態と同じです。前に倒れないように、腰の背筋が一日中、後ろから引っぱり続けます。低い台の作業を、毎日ずっとしているのと同じことです。

体が前に傾いている方ほど、腰の痛みや、日常生活での困りごとが多い傾向があることは、多くの研究で報告されています。


2. 理由その一:痛みを避けるための前かがみ

腰部脊柱管狭窄症では、反ると脚が痛む

腰が前に曲がる理由の一つ目は、骨の形そのものではなく、痛みを避けるため の前かがみです。

代表が 腰部脊柱管狭窄症 です。

前屈と後屈時の脊柱管の変化:前屈では黄色靭帯がのびて薄くなり、後屈ではたわんで厚くなる

腰を後ろにそらすと、背骨の後ろ側にある靭帯(黄色靭帯)がたわんで厚くなり、神経の通り道が狭くなります。脚の痛みやしびれが強くなります。反対に、前かがみになると、靭帯がのびて、通り道が少し広がり、楽になります。

ですから、狭窄症の方は、知らず知らずのうちに前かがみの姿勢をとるようになります。ショッピングカートを押すと楽に歩ける、自転車なら長く乗れる、というのも同じ理由です。日常の工夫は 日常生活の工夫 にまとめてあります。

痛みが和らぐと、起きてくることがある

この前かがみは、体が自分で選んでいる姿勢です。骨そのものが曲がっているわけではありません。

そのため、脚の痛みが和らぐと、姿勢が起きてくることがあります。実際に、狭窄症の手術で神経の通り道を広げると、背骨のバランスがよくなることが、日本を含む複数の研究で報告されています。ただし、すべての方が、まっすぐに戻るわけではありません。前かがみが長く続くうちに、背骨や筋肉そのものが変わってしまうこともあるからです。


3. 理由その二:骨そのものの変形

骨がつぶれて、くさびの形に

二つ目は、骨そのものが変形している 場合です。

たとえば 骨粗しょう症 で背骨の骨がいくつもつぶれると、つぶれた骨はくさびの形になります。背中が前に曲がったまま、固まってしまいます。背中が丸くなる原因は骨折だけではありませんが、大きな原因のひとつです。

この場合は、姿勢に気をつけるだけでは、起こすことができません。

見分ける手がかり

前かがみが「痛みを避けるため」のものか、「骨の変形」によるものか。見分ける手がかりの一つは、あおむけに寝たときに、背中が伸びるかどうかです。主治医は、立った姿勢の写真と、寝た姿勢の写真を比べて判断することがあります。

実際には、両方が重なっている方も少なくありません。骨の変形があり、その上に、脚や腰の痛みを避けるための前かがみが重なっている、という形です。

骨の変形を手術で起こす場合

手術で背骨のバランスを取り戻そうとすると、変形した骨をくさび形に切って起こす「骨切り」を加え、胸の途中から骨盤まで、背骨を長くネジと棒で固定することが多くなります。

これが必要な方は、たしかにいらっしゃいます。一方で、次のことも知っておいてください。

  • 体への負担が大きい手術で、合併症も少なくありません
  • 固定した範囲の背骨は、もう曲がらなくなります
  • 前にかがむ、体をひねる、床のものを拾う、靴下をはく、といった動きが大きく制限されます。固定の範囲が長いほど、この不自由さは増えます

固定術の基本は 固定術、長い目で見た負担は 固定術の長期リスク にまとめてあります。


4. 長い固定の前に、SCSという選択肢(加藤の見解)

加藤からひとこと ここからは、私の考えです。一般的な治療の順番として決まったものではありません。

曲がっている理由は、骨の形だけとは限らない

骨の変形がある方でも、腰が前に曲がっている理由が、すべて骨の形だけとは限りません。痛みを避けるための前かがみが、上に重なっていることがあります。

そのような方では、長い固定の手術を決める前に、まず 脊髄刺激療法(SCS) を試してみる価値があると、私は考えています。

SCSについて、先にお伝えすること

SCSは、背中に細い電極を入れ、弱い電気で痛みの伝わり方を和らげる治療です。背骨を固めることはしません。

そのうえで、お伝えしておくことがあります。

  • 体の中に機器を入れる治療で、感染や機器のトラブルなどのリスクがあります
  • 骨の変形そのものが、SCSで戻るわけではありません
  • 効き目には個人差があります

痛みが和らぐと、姿勢が少し起きてくることがある

痛みが和らぐと、体が自分で選んでいた前かがみが、少し起きてくることがあります。痛みが和らいだことで、姿勢が少し起きてきた方を、私は経験しています。そうなれば、長い固定を避けられる、あるいは、固定する範囲を短くできる可能性があります。

ただし、この考え方を確かめた研究は、まだほとんどありません。手術に向かない背骨の変形がある方の痛みがSCSで和らいだ、という報告はありますが、姿勢そのものを測った研究は見当たりません。長い固定が必要な方も、もちろんいらっしゃいます。主治医とよく話し合ってください。


5. まとめと、よくあるご質問

まとめ

  • 背骨はゆるやかな「S」の字で、横から見ると、頭が骨盤の真上に乗っています
  • 体が前に傾くと、腰の筋肉が一日中引っぱり続け、疲れからくる痛みが続きます
  • 腰が前に曲がる理由には、痛みを避けるための前かがみと、骨そのものの変形があり、両方が重なることもあります
  • 骨の変形を手術で起こすには、長い固定と骨切りが必要になることが多く、背骨の動きを失います
  • 長い固定を決める前に、背骨を固めない選択肢についても、聞いてみてください

よくあるご質問

Q. 腰が曲がってきたのは、年のせいだから、しかたないのでしょうか? しかたないとは限りません。痛みを避けるための前かがみであれば、痛みが和らぐと姿勢が起きてくることがあります。骨の変形によるものでも、痛みの部分が重なっていることがあります。どちらなのかを、主治医に確かめてもらってください。

Q. 背筋をきたえれば、腰はまっすぐになりますか? 筋肉をきたえることは、姿勢を保つ助けになります。ただ、骨の変形で曲がっている部分は、筋肉だけでは起こせません。痛みを避けるための前かがみの場合も、まず痛みの原因に目を向けることが大切です。運動は 運動療法 を参考に、主治医と相談しながら行ってください。

Q. 長い固定の手術をすすめられました。SCSを先に試すことはできますか? 骨の変形の程度や、痛みの性質によって変わります。「私の曲がりのうち、痛みを避けるための前かがみの部分はありますか」「固める手術の前に、SCSを試してみることはできますか」と、主治医に聞いてみてください。SCSを行っている医療機関は限られるため、セカンドオピニオンを考えることもできます(誰に診てもらう?)。

主治医に聞いてみてください

  1. 「私の腰の曲がりは、痛みを避けるためのものですか。それとも、骨の変形によるものですか」
  2. 「手術をする場合、どこからどこまで固定しますか。動かなくなるのは、どの範囲ですか」
  3. 「固める手術の前に、SCSを試してみることはできますか」

※ このページは一般的な情報の提供を目的としています。長い固定の前にSCSを考えるという順番は加藤の見解であり、標準的な治療の順番ではありません。実際の判断は、主治医にご相談ください。


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