内視鏡の手術と従来の手術

MED・UBE・FESSと従来の手術の違いを、同じ背骨の図で比較。骨の削り方と傷の大きさ、向く場合と向かない場合、慣れるまでの坂道、主治医に聞きたい三つの質問。

4つの手術方法を、同じ背骨の輪切りの図で比べたイラスト

「内視鏡なら、小さな傷で済む」。腰部脊柱管狭窄症の手術を調べると、よく目にする言葉です。たしかに、傷が小さいことは利点です。ただ、傷の大きさと、手術の中身や安全さは、別のお話です。このページでは、従来の手術と、三つの内視鏡の手術(MED・UBE・FESS)の違いを、同じ背骨の図で比べながらお話しします。

このページでわかること

  • 狭窄症の手術で、何を取り除くのか
  • 従来の手術と、三つの内視鏡の手術の違い(骨の削り方と、傷の大きさ)
  • 内視鏡の手術に向く場合、向かない場合
  • 診療ガイドラインが、内視鏡の手術をどう見ているか
  • どの方法でも起こりうる合併症
  • 「慣れるまでの坂道」と、医師の経験が大切な理由
  • 主治医に聞いておきたい三つの質問

1. 手術で取り除くものと四つの方法

神経を押しているもの

狭窄症の手術は、多くの場合、神経の通り道を広げる「除圧術」です。神経を押しているのは、おもに、背骨の後ろ側にある黄色靭帯(おうしょくじんたい)です。年齢とともに厚くなり、神経の通り道にはみ出してきます。

この靭帯は、骨の内側に張りついています。靭帯を取るには、手前の骨をどこかで削る必要があります。どこを、どれだけ削るか。そこが、方法によって違います。除圧術そのものについては、除圧術 のページにまとめています。

従来の手術(開放手術)

従来の手術。背中の真ん中から筋肉を左右によけ、椎弓と棘突起を取り除く

背中の真ん中を切り、背骨についている筋肉を左右によけます。背骨の後ろの骨、椎弓(ついきゅう)と棘突起(きょくとっき)を取り除いてから、靭帯を取ります。広く開けるので、神経のまわりを、目で直接、または顕微鏡で確かめながら手術ができます。長い歴史があり、多くの医師が経験を積んでいる方法です。

内視鏡下手術(MED)

MED。片側から直径16mmほどの筒を差し込み、筒の中のカメラで見ながら削る

片側から、直径1.6センチほどの筒を差し込みます。筋肉ははがさず、よけるだけです。筒の中にカメラを入れ、画面を見ながら削ります。

2つの穴の内視鏡(UBE)

UBE。片側の2か所の穴から、カメラと道具を別々に入れ、水で満たして手術する

片側に、上と下の二か所、小さな穴を開けます。一つはカメラ、もう一つは道具の穴です。中を水で満たし、ひざの関節鏡のように見ながら手術をします。図では二本が並んで見えますが、実際の穴は上下に離れています。

1つの穴の内視鏡(FESS)

FESS。片側の1か所の穴から、道具の通り道をもつ細いカメラを入れ、水を流しながら手術する

片側に、穴を一か所だけ開けます。細いカメラの中に道具の通り道があり、カメラと道具が一本になっています。こちらも、水を流しながら手術をします。


2. 違うのは骨の削り方と傷の大きさ

骨の削り方

四つの方法とも、神経を押している靭帯を取る、という目的は同じです。違うのは骨の削り方です。

  • 従来の手術:後ろの骨(椎弓と棘突起)を大きく取り、広く見て確かめる
  • 内視鏡の手術:片側から入り、棘突起の付け根を内側から削って、反対側まで届かせる。棘突起や反対側の骨の大部分は残る

傷の大きさ

背中の傷の大きさの比較。従来の手術は約5cm、MEDは約2.5cm、UBEは約0.5〜1cmが2か所、FESSは約0.8cm。1円玉(直径2cm)と並べている

傷の長さは、施設や医師によって違います。図はおおよその目安です。もっとも、背中の傷は、ご自分ではなかなか見えないのですが。

大切なのは、傷の大きさと、中でする仕事の大きさは別だということです。内視鏡の手術でも、中では神経のすぐそばで、細かい作業をしています。

内視鏡に向く場合と向かない場合

どの方法が合うかは、狭くなっている場所やその数、背骨の状態によって変わります。

  • 背骨のぐらつきや、すべりが強い:通り道を広げるだけでは足りず、骨を固定する手術を考えることがあります(固定術)
  • 狭い場所がいくつもある:方法の選び方や、手術の範囲が変わります
  • 以前に同じ場所の手術を受けている:まわりが癒着(ゆちゃく)していて、方法の選び方が変わります

方法は、画像と症状を見たうえで、主治医と相談して決めるものです。方法の名前から先に決めるものではありません。

内視鏡の手術で期待できること

内視鏡の手術には、筋肉への負担が小さく、手術のあとの傷の痛みが軽く、早く動き出しやすいという利点があります。

一方で、日本の診療ガイドライン(2021年版)は、内視鏡などの小さな傷の手術で、手術のあとの日常生活や脚の痛みが、従来の手術より良くなることは示されていない、と整理しています。日本の多施設の研究でも、経験のある施設では、内視鏡の手術と従来の手術の成績は同じくらいでした。海外の研究をまとめた報告でも、手術のあとの脚の痛みや日常生活の改善に、方法による差は見られていません。

長い目で見ると、従来の手術と小さな傷の手術のあいだに、成績のはっきりした違いはない、というのが現在の見方です。小さな傷の利点が大きいのは、手術直後の傷の痛みや回復の早さです。ただし、何年も先まで比べた研究は、まだ多くありません。

どの方法でも、神経の圧迫がきちんと取れれば、脚の症状の改善は同じように期待できます。傷が小さいことは利点ですが、それだけで手術の良し悪しは決まりません。


3. 慣れるまでの坂道

手術にかかる時間と、医師がその手術をした回数の関係。慣れるまでは時間がかかり、慣れたあとは短く安定する

新しい方法には慣れるまでの期間がある

どんな手術でも、新しい方法を始めた医師には、慣れるまでの期間があります。内視鏡の手術は、とくにこの期間が長いといわれます。

  • 画面は平らな映像で、奥行きがつかみにくい
  • 少しの出血で、視野が見えにくくなる
  • カメラと道具の向きを、頭の中で組み立てながら細かい作業を続ける

車の運転にたとえるなら、ベテランのドライバーでも、初めての車種では慣れるまで慎重になるのと同じです。

研究でわかっていること

  • 慣れるまでの時期は、手術に時間がかかることが、ほぼ一貫して報告されています
  • 研究によっては、この時期に、神経を包む膜の傷などの合併症や、圧迫の取り残しが多いと報告されています
  • 一方で、顕微鏡の手術の経験が豊富な医師では、初めの時期でも合併症が増えなかったという報告もあります

加藤からひとこと 内視鏡の手術は、経験を積んだ医師が行えば、体にやさしい、良い方法です。ただ、新しい技術なので、まだ慣れるまでの途中にいる医師もいます。その医師がまだ内視鏡に慣れていない場合は、その医師が慣れている従来の方法のほうが、安心なこともあります。大切なのは方法の名前ではなく、その方法に、その医師がどれだけ慣れているかです。

学会の技術認定という制度

日本整形外科学会と日本脊髄外科学会には、内視鏡の手術の技術を審査して認定する制度があります。参考になる情報の一つです。ただし、名簿は掲載に同意した医師だけが載るもので、名簿にないことが「経験がない」ことを意味するわけではありません。経験は、主治医に直接たずねるのがいちばん確かです。


4. どの方法でも起こりうることと主治医への質問

知っておきたい合併症

どの方法の手術でも、次のことが起こりえます。

  • 神経を包む膜の傷:膜の中の水(髄液、ずいえき)が漏れることがあります。多くは手術中に修理し、手術のあと、しばらく横になって過ごしていただくことがあります
  • 傷の奥に血がたまる:神経を押すほどたまると、急いで血を取り除く手術が必要になることがあります
  • 圧迫の取り残し:症状が十分に良くならず、もう一度手術が必要になることがあります

内視鏡の手術では、途中で安全に続けるのが難しいと判断した場合、傷を広げて従来の手術に切り替えることがあります。これは失敗ではなく、安全のための判断です。

手術のあとに残る症状については、手術したのに、また痛い・歩けない をご覧ください。

主治医に聞いておきたい三つの質問

  1. 「この方法の手術を、先生はこれまでにどれくらい行っていますか」
  2. 「手術の途中で、ほかの方法に切り替えることはありますか」
  3. 「先生のご家族なら、どの方法をすすめますか」

聞きにくいと感じるかもしれません。でも、きちんと答えてくれる医師なら、安心してお任せできるはずです。ほかの質問の例は 医師への質問リスト にあります。

よくある質問

Q. 内視鏡の手術のほうが、早く退院できますか? 傷の痛みが軽く、早く動き出しやすいので、入院が短くなることはあります。ただ、退院の時期は、施設の方針や、ご自宅の環境によっても変わります。

Q. 内視鏡の手術で、脚の痛みがより良くなりますか? 脚の痛みや歩きやすさの改善は、圧迫がきちんと取れれば、どの方法でも同じくらいと考えられています。長い目で見た成績にも、はっきりした違いは認められていません。

Q. 固定術をすすめられました。内視鏡でできますか? 固定術にも、傷を小さくする方法があります。ただ、固定を加えるかどうかは、方法とは別に、骨の状態で決まります。固定術 のページをご覧ください。固定術をすすめられた場合は、その前に、脊髄刺激療法(SCS) という選択肢についても、主治医と話し合ってみる価値があります。

Q. 主治医に経験の数を聞いたら、失礼になりませんか? なりません。手術を受けるご本人にとって、大切な情報です。多くの医師は、きちんと答えてくれます。


※ このページは一般的な情報の提供を目的としています。どの方法が合うかは一人ひとり異なりますので、実際の判断は主治医にご相談ください。


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主な参考文献

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