SCS後のお薬 — 減らせる?続ける?

SCSのあとのお薬の減らし方の順番、急にやめてはいけない理由、続けたほうがよいお薬。

SCS(脊髄刺激療法)で痛みが和らいだあと、お薬はどうするのか。減らせる理由、急にやめてはいけない理由、減らすときの順番を、根拠とともにまとめました。

※本ページは一般的な情報提供を目的としています。お薬を自己判断でやめたり、量を変えたりしないでください。必ず主治医・薬剤師にご相談ください。


1. SCS後のお薬、まず知っておきたいこと

3分でわかるまとめ

このページのポイント

  • SCSで痛みが和らぐと、痛み止めを減らしたり、やめたりできることがあります
  • ただし、多くの痛みのお薬は急にやめると体調をくずすことがあります。体がお薬に慣れているためです
  • 減らすのは、SCSの調整で痛みが安定してから。主治医と相談し、1種類ずつ、少しずつ
  • どれから減らすかは、副作用に関わっていそうなお薬や、量の多いお薬から考えます
  • 痛みが戻ったら、元に戻してもかまいません。お薬をゼロにすることがゴールではありません

このページでわかること

  • 高齢の方にとって、お薬を減らすことの意味
  • SCSのあと、お薬はどのくらい減るのか(研究からわかること)
  • お薬の種類ごとの「急にやめてはいけない理由」
  • 減らすときの順番と、加藤の考え方
  • お薬メモのつけ方

まず、急にやめることのリスクから

「SCSで楽になったから、今日から痛み止めを全部やめる」は、おすすめできません。

痛みのお薬の中には、長く飲んでいると体がその状態に慣れていて、急にやめると、眠れない、吐き気、頭痛、不安、汗をかく、といった症状が出たり、痛みがかえって強く出たりするものがあります。

これは、あなたの体が弱いからでも、お薬が悪いからでもありません。順番を守って少しずつ減らせば、多くの場合は避けられます。


なぜ、お薬を減らすことに意味があるのか

痛みのお薬は、つらい時期を支えてくれる大切な道具です。一方で、ご高齢の方には、飲む種類や量が増えるほど、次のような心配が大きくなります。

心配ごと 具体的には
ふらつき・転倒 神経の痛みのお薬などで、めまいや眠気が出ることがあります。転んで骨折につながることもあります[1]
日中の眠気 頭がぼんやりして、外出や家事がおっくうになる
飲み合わせ 持病のお薬と合わさって、作用が強く出たり弱くなったりする
腎臓・胃への負担 痛み止めの種類によっては、腎臓の働きや胃の粘膜に負担がかかります
飲み忘れ・飲み間違い 種類が多いほど、管理がむずかしくなる

日本老年医学会も、75歳以上の方やフレイル(体の弱り)のある方では、特に慎重に使うべきお薬の一覧をまとめています。[2]痛み止めの一部(非ステロイド性抗炎症薬など)も、その中に含まれています。

ですから、SCSで痛みが和らいだあとに、必要のなくなったお薬を安全に減らしていくことは、治療の大切な仕上げの一つです。お薬全般の整理については、お薬が増えてきたらもあわせてご覧ください。


2. 減る量と、急にやめてはいけない理由

SCSのあと、お薬はどのくらい減るのか

研究からわかること

SCSのあとのお薬の変化は、主に医療用麻薬(オピオイド)の使用量について調べられています。

代表的なものとして、米国の大規模な保険請求データを使った研究があります。SCSを受けた8,000人あまりについて、手術の前後で医療用麻薬の量を比べたところ、SCSのあと1年以内に、多くの方で使用量が減っていました。また、もともとの量が少ない方ほど、完全にやめられた方の割合が高い傾向がありました。[3]

この研究で、知っておいていただきたい点があります。

  • 米国のデータです。米国は医療用麻薬の使用量が多く、日本の状況とは大きく異なります
  • 保険請求の記録から調べた研究で、比較のための対照群はありません。SCS以外の理由(生活の変化、ほかの治療)で減った可能性もあります
  • 調べられているのは主に医療用麻薬で、神経の痛みのお薬などの変化は、十分にはわかっていません

日本の患者さんに当てはめると

日本では、腰の痛みや脚の痛みに医療用麻薬を長く使う方は、米国ほど多くありません。日本の患者さんが飲んでいることが多いのは、次のようなお薬です。

  • 神経の痛みのお薬(プレガバリン〔リリカ〕、ミロガバリン〔タリージェ〕など)
  • 痛みの伝わり方を整えるお薬(デュロキセチン〔サインバルタ〕など)
  • 弱い医療用麻薬(トラマドール製剤など)
  • 消炎鎮痛薬(ロキソプロフェン〔ロキソニン〕、セレコキシブ〔セレコックス〕など)

ですから、日本では「医療用麻薬がどれだけ減るか」よりも、「眠気やふらつきの出るお薬を、どこまで減らせるか」が実際の関心ごとになります。私の経験では、SCSのあとにお薬を減らすことができた方がいらっしゃいます。一方で、全員が減らせるわけではありません。

それぞれのお薬の特徴は、お薬についてでくわしく解説しています。


お薬の種類ごとの「急にやめてはいけない理由」

お薬によって、急にやめたときに起こりやすいことが違います。

お薬の種類 主なお薬 急にやめると 減らし方の考え方
神経の痛みのお薬 プレガバリン、ミロガバリン 不眠、吐き気、頭痛、下痢、不安、汗をかく、などが出ることがある 添付文書でも、やめるときは少なくとも1週間以上かけて徐々に減らすこととされています[1]
痛みの伝わり方を整えるお薬 デュロキセチン めまい、吐き気、いらいら、不眠、しびれるような感覚などが出ることがある 少しずつ減らしても出ることがあり、数週間続くこともあります[4]。主治医と相談しながら、ゆっくり
医療用麻薬 トラマドール製剤など 体が慣れているため、だるさ、汗、下痢、不安、痛みの悪化などが出ることがある 急にやめず、段階的に減らすことが推奨されています[5]
消炎鎮痛薬 ロキソプロフェン、セレコキシブなど 急にやめても、体の反応は比較的少ない ただし長く飲むほど胃や腎臓への負担が増えるので、不要になったら早めに見直したいお薬です

大切なこと

減らし方の具体的な量やスピードは、お薬の種類、飲んでいる量、年齢、腎臓の働きなどで変わります。表の内容をもとに、ご自身で量を変えないでください。 必ず主治医と一緒に進めましょう。


3. 減らす順番と、続けるお薬

減らすときの順番

一般的には、次のような流れで進めます。

ステップ 内容
1. SCSの調整を整える 植え込んだあとの刺激の調整で、痛みが安定するまでは、お薬はそのまま
2. 主治医と相談して、1種類ずつ どれから減らすかを一緒に決める。同時に2種類以上は減らさない
3. 少しずつ量を減らす 様子を見ながら、時間をかけて
4. 困ったら、すぐ相談 痛みが戻ったら、無理をせず元の量に戻すこともできる

1種類ずつ減らすのには理由があります。同時に減らすと、体調が変わったときに、どのお薬が原因なのか分からなくなるからです。

高齢の方のお薬の整理(「減処方」と呼ばれます)について、海外の専門家も、すべてのお薬とその理由を確認する、一つずつ優先順位をつける、減らしたあとの様子を見守る、といった段階的な進め方を提案しています。[6]

加藤の考え方

私の外来では、次のように考えています。

  • SCSを植え込んだあとの調整で、痛みが安定して和らいでいることを確かめられたら、お薬を減らすことを考えます
  • どのお薬から減らすかは、眠気やふらつきなど、患者さんが困っている副作用に関わっていそうなお薬や、量の多いお薬から考えていきます

これは、あくまで私、加藤の考え方です。実際の進め方は、担当の先生とよくご相談ください。


やめることだけが、ゴールではありません

SCSのあと、お薬を減らせる方もいます。一方で、お薬を続けながら、SCSと組み合わせて暮らしやすくなる方もいます。

どちらが良い・悪いということはありません。その方にとって一番楽に暮らせる組み合わせを、主治医と一緒に探していきます。


続けたほうがいいお薬もある

  • 少量を続けたほうが、楽に過ごせる方もいます
  • 痛み止め以外の持病のお薬(血圧、血糖、コレステロール、骨粗鬆症、心臓のお薬など)は、SCSとは別に考えます。SCSを受けたからといって、やめてよいわけではありません
  • 体調や季節によって、一時的に飲むこともあります

目指すのは、お薬をゼロにすることより、あなたが一番楽に暮らせる組み合わせです。


4. お薬メモ・ご家族へ・まとめ

お薬メモのつけ方

お薬を減らしている間は、簡単なメモが役に立ちます。診察のときに見せるだけで、相談がぐっと具体的になります。

メモしておきたいこと

  • 今飲んでいるお薬の名前と量(お薬手帳でOK)
  • 減らし始めた日と、減らしたお薬
  • その日の痛みの様子(朝・昼・夜でどうか)
  • 眠気・ふらつき・めまいが減ったか、増えたか
  • 眠れたか、吐き気や頭痛はないか
  • できるようになったこと(散歩の距離、家事など)

すぐに相談したいとき

  • 減らしてから、強い不眠、吐き気、不安、汗、めまいが続く
  • 痛みがはっきり戻ってきた
  • 転んだ、転びそうになった

がまんせず、主治医か薬剤師に連絡してください。


ご家族の方へ

お薬を減らしている時期は、ご本人の体調が少し揺れやすい時期です。

  • 「眠そうにしていることが減った」「足取りがしっかりした」など、よい変化に気づいたら声をかけてあげてください
  • 逆に、ふらつきや元気のなさが続くときは、受診のときに一緒に伝えてください
  • 余ったお薬を、ご本人の判断で別の日にまとめて飲むことがないよう、お薬の管理を一緒に確認すると安心です

医師への質問(SCS後のお薬編)

次の診察で、聞いてみてください。

  1. 「今のお薬の中で、減らせそうなものはありますか?」
  2. 「どのお薬から、どのくらいのペースで減らしますか?」
  3. 「減らしている間、どんな症状が出たら連絡すればいいですか?」
  4. 「続けたほうがいいお薬はどれですか?」
  5. 「眠気やふらつきは、どのお薬が関係していそうですか?」

まとめ

  • SCSで痛みが和らぐと、お薬を減らしたり、やめたりできることがある
  • 多くの痛みのお薬は、急にやめると体調をくずすことがある。体がお薬に慣れているため
  • 減らすのは、SCSの調整で痛みが安定してから。1種類ずつ、少しずつ、主治医と一緒に
  • どれから減らすかは、副作用に関わっていそうなお薬・量の多いお薬から
  • 痛みが戻ったら、元に戻してもいい。ゴールは、一番楽に暮らせる組み合わせ

お薬の相談は、SCSの刺激の調整と同じくらい大切な、治療の一部です。


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出典
  1. プレガバリン(リリカ®)添付文書「重要な基本的注意」「用法及び用量に関連する注意」 — 急な中止で不眠・悪心・頭痛・下痢・不安・多汗症などが出ることがあり、少なくとも1週間以上かけて徐々に減量する。めまい・傾眠による転倒・骨折の例、腎機能に応じた用量調節(国の承認を受けた公式の製品情報)
  2. Kojima T, Mizukami K, Tomita N, et al. Screening Tool for Older Persons' Appropriate Prescriptions for Japanese: Report of the Japan Geriatrics Society Working Group on "Guidelines for medical treatment and its safety in the elderly". *Geriatr Gerontol Int*. 2016;16(9):983-1001. PMID: 27594406 — 75歳以上・フレイルの方で特に慎重に使うべき薬の一覧(STOPP-J)。非ステロイド性抗炎症薬を含む(日本老年医学会のガイドライン・系統的レビューに基づく)
  3. Adil SM, Charalambous LT, Spears CA, et al. Impact of Spinal Cord Stimulation on Opioid Dose Reduction: A Nationwide Analysis. *Neurosurgery*. 2020;88(1):193-201. PMID: 32866229 — SCS後1年以内に多くの方で医療用麻薬が減少(米国の保険請求データ8,000人あまりの後ろ向き観察研究・対照群なし。米国と日本では医療用麻薬の使い方が大きく異なる)
  4. Fava GA, Benasi G, Lucente M, et al. Withdrawal Symptoms after Serotonin-Noradrenaline Reuptake Inhibitor Discontinuation: Systematic Review. *Psychother Psychosom*. 2018;87(4):195-203. PMID: 30016772 — デュロキセチンを含むSNRIは、徐々に減らしても中止後の症状が出て数週間続くことがある(61報告の系統的レビュー。症例報告を含み、頻度は報告によりばらつく)
  5. Dowell D, Ragan KR, Jones CM, et al. CDC Clinical Practice Guideline for Prescribing Opioids for Pain - United States, 2022. *MMWR Recomm Rep*. 2022;71(3):1-95. PMID: 36327391 — 医療用麻薬は急な中止を避け、段階的に減らすことを推奨(米国疾病予防管理センターのガイドライン)
  6. Scott IA, Hilmer SN, Reeve E, et al. Reducing inappropriate polypharmacy: the process of deprescribing. *JAMA Intern Med*. 2015;175(5):827-834. PMID: 25798731 — 不要になった薬を減らす・やめる「減処方」の5段階の進め方を提案(専門家による総説・提案)