脊髄刺激療法 SCS

保存療法で十分に良くならないときの選択肢、脊髄刺激療法。リスクと効果、治療の流れを詳しく解説します。

保存的治療で十分な改善が得られない慢性腰痛に対して、脊髄刺激療法(SCS)が検討されることがあります。複数の臨床試験で効果が報告されていますが、すべての方に効くわけではなく、合併症のリスクもあります。


大切なお願い: このページは、SCSという治療法を知っていただくことが目的です。SCSが「最良の治療」であると主張するものではありません。慢性腰痛の治療にはさまざまな選択肢があり、どの治療が適切かは、お一人おひとりの状態によって異なります。必ず主治医とよく相談してください。


このページでわかること

  • SCSとは何か、どんな仕組みか
  • どんな場合に検討されるのか(適応)
  • 知っておくべきリスクと合併症
  • 臨床試験で報告されている効果
  • 植込みの進め方(試験刺激を含む)
  • 費用と保険適用について
  • SCSが向かない場合

利益相反の開示: このウェブサイトの運営者は、SCS治療を実施する脊椎外科医です。そのため、SCSに関して利害関係があります。このページでは効果だけでなく、適応が限られること、合併症のリスク、効果が得られない場合があることも記載しています。最終的な治療選択は、担当医の診察のうえ、他の治療法も含めてご検討ください。


1. SCSとは、どんな場合に検討されるか

SCSとは何か

**脊髄刺激療法(せきずいしげきりょうほう)**は、背中の脊髄(せきずい)の近くに細い電極(リード)を入れ、弱い電気信号で痛みの信号を調整する治療です。

仕組みの基本:ゲートコントロール理論

SCSの原理は、1965年にMelzackとWallが提唱したゲートコントロール理論に基づいています。

脊髄には、痛みの信号が脳に伝わるのを調整する「門(ゲート)」のような仕組みがあります。痛みの信号(細い神経線維が伝える)がゲートを開いて脳に届くのに対し、触覚や圧覚などの太い神経線維を刺激すると、このゲートが閉じて痛みの信号が脳に届きにくくなります。

SCSは、脊髄の近くに電極を置いて電気刺激を与えることで、この「ゲートを閉じる」効果を利用しています。

  • 従来のSCS:太い神経線維を刺激してゲートを閉じる → ビリビリ感(パレステジア)を伴う
  • 近年の技術(高周波刺激など):ゲートコントロールに加え、脳の痛み処理そのものを調整するアプローチも用いられており、ビリビリ感なしに効果が得られる方式もあります

脊柱管狭窄症に対するSCSの詳しい解説動画では、この仕組みをアニメーションでご説明しています → SCSの解説動画を見る

重要なポイント

  • 開腹や大きな切開を伴う手術ではありませんが、電極を入れる医療処置であり、感染や出血などのリスクがあります
  • 可逆的(かぎゃくてき)な治療で、必要に応じて抜去できます。ただし、留置や抜去にも医療的な判断が必要です
  • 希望があれば、植え込む前に1週間前後の試験刺激を行うこともできます(最近はリードと本体を一度に植え込むことが多くなっています)
  • 一部の方式ではビリビリ感がないものもあります(機種により異なります)

どんな場合に検討されるのか

SCSはすべての慢性腰痛に適応があるわけではありません。以下の条件を満たす場合に検討されます:

条件 詳しい説明
慢性腰痛が6ヶ月以上続いている 短期間の痛みは対象外
保存的治療を十分に行った 運動療法、薬物療法、心理的アプローチなど
脊椎外科医が手術適応でないと確認 構造的な問題がある場合は、まず外科的治療を検討
重度の精神疾患がない 心理評価が行われます

2. リスクと向かない場合

知っておくべきリスクと合併症

SCSを検討する前に、次のリスクを知っておいてください。

起こりうる合併症

合併症 説明
電極のずれ(リード移動) 電極が元の位置からずれ、刺激の効きが変わることがある。再調整や再手術が必要な場合も
感染 電極や装置を入れた部分に感染が起きることがある。抗生物質や、場合によっては装置の抜去が必要
痛みの変化 期待した効果が得られない、または新たな痛みが出ることがある
機器の不具合 バッテリー切れ、接続の問題、装置の故障が起きることがある
再手術 上記の問題により、追加の手術が必要になることがある

合併症について知っておくこと

  • SCSを受ける方は、上記の合併症が起こりうることを十分に理解しておく必要があります
  • 合併症の頻度は、使用する機器の世代、施設の経験、患者さんの状態によって大きく異なります
  • 新しい機器では改善が報告されていますが、リスクがなくなるわけではありません
  • 合併症の内容によっては、装置の調整で対応できるものもあれば、追加の手術や装置の抜去が必要になるものもあります

担当医に確認すべきこと: 「この施設でのSCSの合併症率はどのくらいですか?」「どのような合併症が多いですか?」と、ご自身のケースでの具体的なリスクについて説明を受けてください。


SCSが向かない場合

以下のような場合、SCSは推奨されません:

  • 保存的治療をまだ十分に行っていない場合
  • 外科的に治療できる明確な構造的問題がある場合(すべり症、不安定な骨折など)
  • 重度の抑うつや不安障害がコントロールされていない場合
  • 全身状態が手術に耐えられない場合
  • 感染症がある場合

SCSはあくまで治療の選択肢の一つです。運動療法、心理療法、適切な薬物療法など、他のアプローチとの組み合わせや、他の治療法がより適切な場合もあります。


3. 臨床試験の効果と技術の進歩

臨床試験で報告されている効果

臨床試験と実際の診療の違い: 以下は、厳格な基準で患者さんを選んだ臨床試験の結果です。実際の診療では、患者さんの状態が多様なため、結果が異なることがあります。臨床試験の結果は「条件が整った環境での成績」と考えてください。

手術を受けていない慢性腰痛へのSCS:研究で報告されていること

以前、SCSは主に「腰の手術をしたが脚の痛みが取れなかった方」(FBSS)を対象としていました。近年は、手術を受けたことがない慢性腰痛(非手術性慢性腰痛)に対するSCSのエビデンスも蓄積されています。

質の高い臨床試験(無作為化比較試験)で、手術歴のない慢性腰痛患者に対してSCSの有効性が報告されています。これらの研究では、従来の治療と比較して、多くの患者さんで痛みの改善が得られたことが示されました。

なぜこの研究動向が重要なのか

これまで「SCSは手術後の痛みに使うもの」と考えられてきましたが、近年の研究は、手術を一度も受けていない慢性腰痛にもSCSが有効である可能性を示しています。

治療の全体像のページで解説した「治療の階段」でいえば、ステップ1〜4で十分な改善が得られない場合に、SCSを検討するという選択肢が、研究によって支持されるようになってきています。

ただし: 臨床試験は厳格な参加条件を満たした患者さんを対象としています。実際の外来では、効果が異なる可能性があります。また、SCSの臨床試験の多くは機器メーカーの資金提供で行われています。

効果が得られない場合

  • 臨床試験でも、一定の割合の方は十分な改善が得られていません
  • 試験刺激や植込みのあとで効果が出ない場合もあります。その場合は別の治療を検討します
  • 効果が出ても、痛みが完全になくなるわけではありません。痛みを「和らげる」治療です

技術の進歩について

以前のSCSは「ビリビリ感」で痛みをまぎらわす方法でしたが、新しい方式ではまったく違うアプローチで痛みの信号を調整します。

現在はいくつかの異なる刺激方式があり、それぞれの特徴が臨床試験で検証されています。どの方式が適切かは、患者さんの状態や痛みの種類によって異なるため、担当医と相談して決めます。

新しい方式の主な特徴:

  • ビリビリ感がないので、自然な感覚が保たれる
  • 睡眠中も快適に使える

4. 治療の流れと費用

SCSの治療の流れ

ステップ1:専門医への相談

まず、SCSの専門知識を持つ医師の診察を受けます。これまでの治療経過、痛みの状態、画像検査、心理評価などを総合的に判断して、SCSが適切かどうかを確認します。


ステップ2:試験刺激(希望がある場合)

希望があれば、本格的な治療の前に試験刺激を行うことができます。ただ、短い期間では効果を判断しにくい方が多いことと、感染のリスクを考えて、最近はリードと本体を一度に植え込むことが多くなっています。試験刺激を行う場合は、次のように進みます。

  • 局所麻酔で細い電極を入れる(入院は数日〜1週間程度)
  • 1週間前後、日常生活の中で効果を確認
  • 痛みが50%以上改善した場合、本格的な治療に進む
  • 効果が不十分なら、電極を抜いて元に戻す

試験刺激自体にも感染などのリスクがあります。「気軽に試せる」ものではありません。


ステップ3:本植え込み

一度に植え込む場合、または試験で効果が確認された場合に、永久的な装置を植え込みます:

  • 電極と、バッテリーを含む小さな装置(ジェネレーター)を体内に埋め込む
  • ジェネレーターはお尻の上あたりの皮膚の下に入る(名刺を半分に切ったくらいの大きさで、厚さは約1cm)
  • 手術時間は通常1〜2時間程度
  • 入院期間は数日〜1週間程度

ステップ4:フォローアップ

  • 定期的な外来でプログラムの調整を行う。そのうえで、日々の痛みの波に合わせて手元のリモコンでご自身でも調整できる
  • バッテリー交換が必要:充電式のもちは機器の種類や、刺激の流し方・強さなどで変わる。非充電式は刺激の設定などで大きく変わり、数年で交換になることが多い
  • 痛みの変化に応じて刺激パターンを調整可能

費用と保険適用

日本の国民健康保険で適用されます

SCSは日本の国民健康保険の適用対象です。

  • 試験刺激と本植え込みの両方が保険適用
  • デバイスの費用も保険でカバーされる
  • 高額療養費制度の対象で、自己負担には上限がある

費用について

実際の自己負担額は、年齢、保険の種類、所得区分によって異なります。また、充電式と非充電式で将来のバッテリー交換費用が異なる場合があります。詳しい費用は、外来で個別にご説明します。

よくある質問

お薬の使用量について

複数の研究で、SCS後に痛み止めの使用量が減ることが報告されています。特に、オピオイド(強い鎮痛薬)の使用量が減少したという報告があります。

ただし、これもすべての方に当てはまるわけではなく、SCSを受けても薬が必要な場合があります。

脊柱管狭窄症(LCS)とSCS

このサイトでは、脊柱管狭窄症に対するSCSの情報も詳しく提供しています。慢性腰痛と脊柱管狭窄症が合併している場合は、両方の観点からSCSを検討できます。

脊柱管狭窄症とSCSについて → 脊髄刺激療法について

質問 答え
「体に機械を入れるのが怖いのですが…」 その気持ちは当然です。合わなければ取り出すことができます。希望があれば、植え込む前に試験刺激を行うこともできます。本体は名刺を半分に切ったくらいの大きさで厚さ約1cmの装置で、ペースメーカーと同じ考え方の医療機器です
「手術を受けていなくてもSCSは使えますか?」 条件を満たせば検討されます。最近の研究では、手術歴なしの慢性腰痛も対象に含まれています
「ビリビリ感がありますか?」 一部の方式ではビリビリ感がないものもあります。機種や設定によって異なるため、担当医にご確認ください
「MRIは受けられますか?」 近年の機器の多くはMRI対応ですが、条件があります。詳しくは担当医にご確認ください
「入浴や温泉は?」 傷が治った後は可能です。担当医に確認してください
「どれくらい入院しますか?」 試験は数日〜1週間、本植え込みも同程度です
「保険は使えますか?」 はい。日本の国民健康保険で適用されます

5. まとめと相談の準備

まとめ

  • SCSは、保存的治療で十分な改善が得られない慢性腰痛に対して検討される治療選択肢の一つ
  • 臨床試験では痛みの改善が報告されているが、効果には個人差があり、十分な改善が得られない方もいる
  • 合併症のリスクがある(感染、電極のずれ、機器不具合、再手術の可能性)
  • 植込みは一度に行うことが多い。希望があれば試験刺激も行える
  • 日本の国民健康保険で適用され、高額療養費制度の対象
  • 可逆的な治療で、必要に応じて抜去可能(ただし医療的判断が必要)
  • 痛みを「治す」のではなく「和らげる」治療であることを理解したうえで、主治医と十分に相談して判断する

主治医に聞いてみましょう

SCSについて主治医と相談する際に、以下の質問が参考になるかもしれません:

  • 「私の痛みは、SCSが効きやすいタイプですか?」
  • 「SCSの前に、まだ試していない治療はありますか?」
  • 「この施設でのSCSの経験はどのくらいありますか?」
  • 「試験刺激で効果がなかった場合は、どうなりますか?」
  • 「合併症が起きた場合の対応について教えてください」
  • 「日常生活(入浴、運動、MRI検査など)にどのような制限がありますか?」

痛みの経過を整理する:専門医への相談に備えて

SCSの専門医を受診するときは、これまでの痛みの経過と治療歴を整理しておくと、医師が判断しやすくなります。

整理しておくとよい情報:

  • いつから痛みが始まったか(発症の経緯)
  • 痛みがどのように変化してきたか(悪化・改善のパターン)
  • これまでに受けた治療(お薬、注射、リハビリ、手術など)とその効果
  • 現在の症状と日常生活への影響
  • 治療への希望や不安

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主な参考文献

  1. Kapural L et al. "Treatment of nonsurgical refractory back pain with high-frequency spinal cord stimulation at 10 kHz: 12-month results of a pragmatic, multicenter, randomized controlled trial." J Neurosurg Spine. 2022;37(2):188-199.(機器メーカーNevro社の社員が共著者に含まれます)
  2. Eldabe S et al. "The Effectiveness and Cost-Effectiveness of Spinal Cord Stimulation for Refractory Pain." Health Technol Assess. 2020.
  3. Hayek SM et al. "Neuromodulation therapy utilization." Pain Med. 2015;16(7):1455-1468.
  4. Kapural L et al. "Comparison of 10-kHz High-Frequency and Traditional Low-Frequency Spinal Cord Stimulation." Anesthesiology. 2015;123(4):851-860.

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