なぜ腰が痛いのか

慢性腰痛の原因を正直に解説。MRIの「異常」は85%以上が正常な老化現象であることを知っていますか?

腰痛の原因は一つではありません。そして、MRIの「異常」は必ずしも「病気」ではありません。


お願い: 「MRIで椎間板が潰れていると言われた」「骨が変形していると言われた」と聞けば、不安になるのは当然です。ただ、その「異常」の多くは、痛みのない人にも見つかるものです。


このページでわかること

  • 腰のどこが痛みを出しているのか(6つの「痛みの発信源」)
  • なぜ原因を一つに特定できないことが多いのか
  • MRI検査の結果を正しく理解する方法
  • 「中枢性感作」という、新しい痛みの理解

1. 腰痛の「犯人候補」は一人ではない

腰には、痛みを出す可能性がある場所(「痛みの発信源」)がいくつもあります。

1. 背骨のクッション、椎間板(ついかんばん)

慢性腰痛のうち26〜42%に関わっています。

椎間板は、背骨の骨と骨の間にあるクッションです。加齢とともに外側の壁(線維輪)に小さなひび割れができ、そこに神経や血管が入り込むことがあります。すると、椎間板そのものが痛みの原因になります。

典型的なのは、腰の中心部の深い鈍痛です。長時間座っていると悪化し、立ち上がると楽になることが多くあります。

長く座ったあと、机の前で立ち上がり、腰に手を当てて体を伸ばす男性

痛みがなくても、20歳の37%、80歳の96%はMRIで椎間板の変性が見つかります(Brinjikji 2015年)。


2. 背骨の小さな関節、椎間関節(ついかんかんせつ)

慢性腰痛のうち15〜45%に関わっています。

椎間関節は、背骨の後ろ側にある小さな関節で、背骨の動きを制御しています。膝関節と同じように、軟骨がすり減って関節炎になることがあります。

典型的なのは、腰の片側または両側の痛みです。お尻や太ももの上部に広がることもあり、体を反らしたりひねったりすると悪化します。

腰に手を当てて体を後ろに反らし、痛みに顔をしかめる男性

画像検査で関節の変形が見つかっても、それが痛みの原因とは限りません。30歳の約10%でも画像上の変化があり、痛みのある人とない人で変化の頻度はほぼ同じです(Borenstein 2004年)。


3. 骨盤と背骨のつなぎ目、仙腸関節(せんちょうかんせつ)

慢性腰痛のうち10〜30%に関わっています。

仙腸関節は、背骨の一番下(仙骨)と骨盤(腸骨)をつなぐ大きな関節です。上半身の体重を両足に伝えています。出産、脚の長さの違い、過去の腰の手術、炎症性疾患などが原因で痛むことがあります。

典型的なのは、お尻の片側を指で指せるような痛みです。鼠径部(足の付け根)に広がることもあります。


4. 腰を支える筋肉と筋膜

痛みクリニック受診者のうち30〜85%に関わっています。

筋肉の損傷、使いすぎ、長時間の不良姿勢により、「トリガーポイント」(筋肉の硬い結び目のような部分)ができることがあります。これが、その場所だけでなく離れた場所にも痛みを起こします。

典型的なのは、押すと痛い「コリ」のような部分があり、そこから痛みが広がる感覚です。ストレスや疲労で悪化します。


5. 「音量が上がった」状態、中枢性感作(ちゅうすうせいかんさ)

中枢性感作は、比較的新しい概念です。

痛みが長く続くと、脊髄や脳の神経系が「敏感モード」になることがあります。ラジオの音量つまみが知らないうちに上がってしまったような状態です。すると、次のようなことが起きます。

  • 通常は痛くない刺激(軽く触れるだけ)でも痛みを感じる
  • 少しの痛みが、強い痛みとして伝わる
  • 組織が治った後も、痛みが続く

これは「気のせい」ではありません。 神経系に実際に起きている変化です。国際疼痛学会(IASP)は、組織の損傷や神経の病気がはっきりしないのに、痛みの感じ方が変化して生じる痛みを「ノシプラスティック痛」(nociplastic pain)と分類しました。中枢性感作は、その仕組みの一つと考えられています。「ノシ」は痛み、「プラスティック」は変化するという意味で、合わせて「神経が変化して生じる痛み」を指します。

睡眠不足は中枢性感作と深く関わり、ストレスや不安とも結びついていることが報告されています(Nijs 2018年)。

痛みの「音量つまみ」のたとえ:ラジオの音量つまみが上がっている。寝不足・ストレス・不安が音量を上げる


6. 腰の痛みも出すことがある脊柱管狭窄症

脊柱管狭窄症(このサイトのもう一つの専門テーマ)は、足のしびれや歩行時の痛みで知られていますが、腰そのものの痛みを起こすこともあります。

椎間関節の肥大、靭帯の肥厚、椎間板の変性など、狭窄を起こす変化そのものが腰痛の原因になります。

脊柱管狭窄症について詳しくは → 脊柱管狭窄症とは


2. なぜ「犯人」を特定できないのか

MRIの「異常」= 痛みの原因?

必ずしもそうではありません。

2015年にBrinjikjiらは、痛みのない健康な人のMRIを年代ごとに調べました。

年齢 椎間板変性 椎間板膨隆 椎間板突出
20代 37% 30% 29%
30代 52% 40% 31%
40代 68% 50% 33%
50代 80% 60% 36%
60代 88% 69% 38%
70代 93% 77% 40%
80代 96% 84% 43%

これらは痛みがない人の数字です。

80歳でMRIを撮れば、ほぼ全員に「椎間板変性」が見つかります。白髪と同じく、正常な老化現象です。

Brinjikjiらは論文の結論で、画像に見える退行性の変化の多くは正常な老化の一部で、痛みとは関係がない可能性が高い、と述べています。

検査の限界

検査法 問題点
椎間板造影検査 痛みのない人でも「痛い」と反応する場合がある(偽陽性率が高い)
椎間関節ブロック 1回のブロックでは偽陽性率27〜63%。「純粋な」椎間関節痛はわずか15%
仙腸関節の検査 1つの検査では信頼性が低い。3つ以上の検査を組み合わせる必要がある
MRI 「異常所見」のほとんどは正常な老化。痛みのある人とない人で所見の頻度に大きな差がない

多くの「犯人」が同時にいる

実際には、一人の患者さんの中に複数の痛みの発信源が同時にあることが多くあります。

  • 椎間板の問題 + 椎間関節の関節炎 + 筋肉の緊張
  • 仙腸関節の痛み + 中枢性感作
  • 構造的な変化 + 心理的な要因(不安、抑うつ)

これは医師の能力不足ではなく、現在の医学の限界です。原因が特定できなくても、あなたの痛みが「気のせい」だということにはなりません。痛みは本物です。

「慢性腰痛患者の中で、脊椎固定術が確実に有効な患者群を特定することはできなかった」 — Willems 2013年(固定術の予後予測テストに関する包括的レビュー)


3. では、どうすればいいのか?

原因がわからなくても、できることはあります。

原因を一つに絞り込めないからこそ、複数のアプローチを組み合わせた治療が効果的とされています。

効果が報告されているアプローチ

  1. 運動療法:痛みのタイプに合った運動で改善が報告されている(Long 2008年)
  2. 痛みの教育:痛みの仕組みを理解するだけで、痛みが軽くなることが報告されている
  3. 心理的アプローチ:認知行動療法やマインドフルネスが効果的(Cherkin 2016年、JAMA)
  4. 薬物療法:万能ではないが、一部の薬は効果がある
  5. 脊髄刺激療法(SCS):保存的治療で改善しない場合の選択肢(リスクもあるため、詳しくは専用ページをご確認ください)

手術を急がない

「MRIに異常があるから手術が必要」という短絡的な結論は避けるべきです。

大規模な臨床試験(11年間の追跡調査)で、非特異的慢性腰痛に対する脊椎固定術は、リハビリテーションと比べて臨床的に意味のある差がないことが示されています(Mannion 2013年)。


4. まとめと相談のヒント

まとめ

  • 慢性腰痛には6つの主な「痛みの発信源」がある(椎間板、椎間関節、仙腸関節、筋肉、中枢性感作、脊柱管狭窄)
  • 慢性腰痛の多くは、一つの原因に特定できない
  • MRIの「異常」は多くの場合、正常な老化。80歳の96%に見つかる変化は、白髪と同じ
  • 原因が一つに絞れないからこそ、複数のアプローチを組み合わせた治療が効果的
  • 「MRI異常 → 即手術」は、エビデンスが支持しておらず推奨されない

医師に相談するときのヒント

次の受診時に、こんな質問をしてみてください。

  • 「私の腰痛は、どの"痛みの発信源"が一番疑われますか?」
  • 「MRIの所見は、痛みの原因と考えてよいのでしょうか?それとも年齢相応の変化でしょうか?」
  • 「中枢性感作の可能性はありますか?」
  • 「複数の原因が重なっている場合、どのような治療の組み合わせが考えられますか?」

主な参考文献

  1. Brinjikji W et al. "Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations." AJNR Am J Neuroradiol. 2015;36(4):811-6.
  2. Brinjikji W et al. "MRI Findings of Disc Degeneration are More Prevalent in Adults with Low Back Pain than in Asymptomatic Controls." AJNR Am J Neuroradiol. 2015;36(12):2394-9.
  3. Urits I et al. "Low Back Pain, a Comprehensive Review." Curr Pain Headache Rep. 2019;23(3):23.
  4. Allegri M et al. "Mechanisms of low back pain: a guide for diagnosis and therapy." F1000Res. 2016;5.
  5. Willems P. "Decision making in surgical treatment of chronic low back pain." Acta Orthop Suppl. 2013;84(349):1-35.
  6. Schuttert I et al. "The Definition, Assessment, and Prevalence of Central Sensitisation in Patients with Chronic Low Back Pain." J Clin Med. 2021;10(24):5931.
  7. Manchikanti L et al. "Comprehensive Evidence-Based Guidelines for Facet Joint Interventions." Pain Physician. 2020;23(3S):S1-S127.
  8. Cohen SP et al. "Sacroiliac joint pain: a comprehensive review." Expert Rev Neurother. 2013;13(1):99-116.
  9. Borenstein D. "Does osteoarthritis of the lumbar spine cause chronic low back pain?" Curr Pain Headache Rep. 2004;8(6):512-7.
  10. Mannion AF et al. "Comparison of spinal fusion and nonoperative treatment in patients with chronic low back pain: long-term follow-up of three randomized controlled trials." Spine J. 2013;13(11):1438-48.
  11. Long A, May S, Fung T. "Specific directional exercises for patients with low back pain: a case series." Physiother Can. 2008;60(4):307-17.
  12. Cherkin DC et al. "Effect of Mindfulness-Based Stress Reduction vs Cognitive Behavioral Therapy or Usual Care on Back Pain and Functional Limitations in Adults With Chronic Low Back Pain: A Randomized Clinical Trial." JAMA. 2016;315(12):1240-9.
  13. Nijs J et al. "Sleep Disturbances in Chronic Pain: Neurobiology, Assessment, and Treatment in Physical Therapist Practice." Phys Ther. 2018;98(5):325-335.

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