検査と診断 慢性腰痛の診断に必要な検査と、なぜ「もっと検査」が必ずしも良いとは限らないのかを解説します。
検査が多ければ良いわけではありません。不要な検査が、かえって不安を増やすことがあります。
「MRIを撮ってもらえなかった」と不満に思ったことはありませんか。それは医師があなたを軽く見ているからではなく、不必要な不安から守ろうとしているからかもしれません。このページでは、その理由をお話しします。
このページでわかること
診察室で医師が何を調べているのか
MRIで「すべてがわかる」わけではない理由
60歳以上の方で検査結果が変わる理由
痛みの慢性化を予測する「心の要因」(イエローフラッグ)
診断的ブロック注射の役割と限界
初めての受診で準備しておくこと
問診と身体診察 医師が最初にすること・身体診察:医師が体を触って調べること 画像検査:MRIは本当に必要か? 「MRIを撮ってください」と言いたくなる気持ち・なぜMRIが害になりうるのか・痛みがない人のMRI・MRIが必要なとき・過剰検査と過少検査、どちらも問題 心の要因と神経の痛みを調べる イエローフラッグ:痛みの慢性化を予測する「心の要因」・PainDETECT:神経の痛みを見つける問診票 ブロック注射と質問票 診断的ブロック注射:痛みの「犯人捜し」・質問票:痛みを「見える化」する 初めての受診とまとめ 初めての受診で準備しておくこと・主な参考文献 1. 問診と身体診察 医師が最初にすること
3つのカテゴリーに分ける
アメリカ内科学会・アメリカ疼痛学会の診療ガイドライン(Chou 2007年)では、医師はまず腰痛を3つのカテゴリーに分類します。
カテゴリー
割合
内容
非特異的腰痛
約85%
明確な一つの原因が特定できない腰痛
神経根症・脊柱管狭窄
約10%
足にしびれや痛みが広がる腰痛
特定の原因がある腰痛
約5%
骨折、がん、感染症、馬尾症候群など
多くの方は「非特異的腰痛」に分類されます。原因がないという意味ではなく、一つの原因に絞り込めないという意味です(詳しくは「なぜ腰が痛いのか 」をご覧ください)。
痛みのパターンを聞く
医師の質問には、それぞれ調べたいことがあります。
医師の質問
何を調べているか
「どんなときに痛みますか?」
機械的な痛み(動くと痛い)か、炎症性の痛み(安静時も痛い)か
「朝のこわばりはありますか?」
30分以上続く朝のこわばりは炎症性疾患のサイン
「足にしびれはありますか?」
神経の圧迫があるかどうか
「歩くと足が重くなりますか?」
脊柱管狭窄症の典型的な症状(間欠跛行)
「おしっこは普通に出ますか?」
馬尾症候群のスクリーニング
身体診察:医師が体を触って調べること
SLRテスト(下肢伸展挙上テスト)
仰向けに寝た状態で、医師が足をまっすぐ持ち上げるテストです。太ももの裏やふくらはぎに痛みが走る場合、椎間板ヘルニアによる神経の圧迫が疑われます。
ただし、60歳以上の方では、このテストの感度が大幅に下がります。
年齢層
SLRテストの感度(椎間板ヘルニアを見つける力)
若い方
約91%
60歳以上
約33%
60歳以上の方では、SLRテストが「陰性」(痛みが出ない)でも、ヘルニアがないとは言い切れません (Qazi 2023年)。医師はこれを知った上で、他の所見と合わせて判断します。
神経学的検査
医師が膝やアキレス腱を叩いたり、足の感覚や、足の指・足首の力を確かめたりするのは、どの神経が圧迫されているかを調べるためです。
検査
何がわかるか
膝の反射
L3-L4の神経の状態
アキレス腱の反射
S1の神経の状態
足首の背屈力
L4-L5の神経の状態
親指の背屈力
L5の神経の状態
足の感覚
どのレベルの神経が影響を受けているか
その他の検査
テスト名
何を調べるか
FABERテスト
仙腸関節(骨盤の関節)の問題
不安定性テスト
腰椎の不安定性(グラグラしている状態)
片脚立ちテスト
バランスと安定性(特にご高齢の方の機能評価)
2. 画像検査:MRIは本当に必要か? 「MRIを撮ってください」と言いたくなる気持ち
痛みが続けば、MRIで原因を突き止めてほしいと思うのは自然なことです。
けれども、MRIで何でもわかるわけではありません。タイミングを誤ったMRIは、害になることもあります。
なぜMRIが害になりうるのか
研究(Srinivas 2012年、Jenkins 2018年)では、次のような問題が指摘されています。
不必要な不安を生む。MRIで見つかる「異常」の多くは正常な老化現象です(なぜ腰が痛いのか で詳しく解説しています)
「異常」が見つかると、さらに検査を受けることになる
MRIの「異常」をもとに手術が行われ、結果が良くないことがある
画像の異常を見せられると、「自分は壊れている」と感じてしまう
痛みがない人のMRI
年齢
痛みがない人でもMRIで見つかる変化
60代
88%に椎間板変性、69%に椎間板膨隆
70代
93%に椎間板変性、77%に椎間板膨隆
80代
96%に椎間板変性、84%に椎間板膨隆
これらは痛みのない健康な方の数字です(Brinjikji 2015年)。
MRIで「椎間板が潰れています」「ヘルニアがあります」と言われても、それが痛みの原因とは限りません。
MRIが必要なとき
MRIが必要
MRIは不要
足の力が入らない(進行性)
6週間以内の腰痛で危険信号がない
馬尾症候群が疑われる
慢性の腰痛で神経症状がない
がんや感染症の疑い
「念のため」「安心のため」
手術やブロック注射の計画がある
他の病院のMRIがすでにある
過剰検査と過少検査、どちらも問題
Jenkins 2018年の研究では、次のような結果が出ています。
画像検査の依頼のうち34.8%は不適切(危険信号がないのに撮影)
一方、危険信号がある患者の65.6%は画像検査を受けていない
必要な人が検査を受けておらず、不要な人が検査を受けている、という状況です。
3. 心の要因と神経の痛みを調べる イエローフラッグ:痛みの慢性化を予測する「心の要因」
レッドフラッグより重要かもしれない
レッドフラッグ(こんな症状は要注意 )は、重い病気を見つけるための信号です。
一方、イエローフラッグは、その腰痛が長引くかどうかを予測する心理的・社会的な要因です。痛みの慢性化については、イエローフラッグのほうがMRIの所見よりも正確に予測します(Pincus 2002年)。
主なイエローフラッグ
イエローフラッグ
どう影響するか
抑うつ気分・心理的苦痛
慢性化の最も強い予測因子
恐怖回避行動
「動くと悪くなる」という考えが、日常生活の障害の23%を説明する
破局的思考
「もう二度と良くならない」という考え方
身体化傾向
体の不調に過度に注目する傾向
「痛いから動かない」の悪循環
恐怖回避行動(Fear-Avoidance)は、慢性腰痛を理解するうえで欠かせない考え方です(Waddell 1993年)。
[!note] 恐怖回避行動の悪循環
痛みを経験する → 「動くともっと痛くなる」と考える(恐怖)→ 動かなくなる(回避行動)→ 筋力が落ちる、体が硬くなる → 少しの動きでも痛みが出やすくなる → 「やっぱり動くと痛い」と確信する → さらに動かなくなる...(悪循環)
イエローフラッグは「弱さ」ではなく、誰にでも起こりうる自然な反応です。まずは自分にそれがあると気づくこと。そのうえで運動療法と、場合によっては心理的サポートを組み合わせれば、この悪循環は断ち切れます。
PainDETECT:神経の痛みを見つける問診票
慢性腰痛の中には、神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)という種類の痛みが含まれていることがあります。
PainDETECTという問診票を使った大規模調査(約8,000人)の結果(Freynhagen 2006年):
慢性腰痛患者の37%で、神経障害性の痛みが主体と判定された
この種の痛みを持つ方は、痛みがより強く、うつ症状や睡眠障害も多い
神経の痛みかどうかで治療が変わる
神経障害性の痛みには通常の痛み止め(NSAIDs)が効きにくく、別の種類の薬や治療が必要になります。保存的治療で改善しない場合、脊髄刺激療法(SCS)が選択肢の一つとして検討されることがあります。
「ビリビリする」「電気が走るような痛み」「焼けるような痛み」がある方は、医師にその感覚を具体的に伝えてください。
4. ブロック注射と質問票 診断的ブロック注射:痛みの「犯人捜し」
画像検査で原因がはっきりしない場合、診断的ブロック注射 という方法があります。痛みの原因と疑われる場所に局所麻酔薬を注射し、痛みが一時的に消えるかどうかを確かめます。
椎間関節ブロック(内側枝ブロック)
椎間関節(背骨の後ろ側の小さな関節)が痛みの原因かどうかを調べます
1回のブロックでは偽陽性率(本当は原因でないのに「原因だ」と出る率)が27〜63%あります
そのため、異なる麻酔薬を使った2回のブロックが推奨されています(Cohen 2020年)
2回とも効果があれば、高周波熱凝固法(RFA)という治療に進むことができます
仙腸関節ブロック
骨盤の関節が痛みの原因かどうかを調べます
身体診察だけでは診断が難しいため、3つ以上の検査を組み合わせることが推奨されています
ブロック注射の限界
注射の種類
特徴と注意点
椎間関節ブロック
1回のブロックでは偽陽性率が高い。「純粋な」椎間関節痛はわずか15%
仙腸関節ブロック
痛みの広がり方が一定でなく、診断が難しい
椎間板造影検査
痛みのない人でも「痛い」と反応する場合がある
選択的神経根ブロック
多椎間に病変がある場合に、どの神経が原因か絞り込むのに役立つ。ただし、これだけで原因が確定するわけではない
ブロック注射は役に立つ検査ですが、これで原因が100%わかるわけではありません。結果は、ほかの診察所見と合わせて読む必要があります。
質問票:痛みを「見える化」する
痛みの程度や生活への影響を客観的に評価するため、医師はいくつかの質問票を使います。
質問票
何を測るか
特徴
VAS(痛みスケール)
痛みの強さ
0〜10の数字で評価。最もシンプル
ODI
生活への影響度
10の項目(歩行、座位、睡眠など)で評価。世界的な標準
JOABPEQ
腰痛・機能・歩行・社会生活・心理面
日本整形外科学会が開発。5つの領域を評価
PainDETECT
神経障害性疼痛の有無
痛みの種類を分類。SCSの適応判断にも使用
STarT Back
慢性化のリスク
低・中・高リスクに分類。治療方針の決定に使用
質問票に「正解」はありません。感じていることを、そのまま答えてください。そのほうが正確な診断につながります。
5. 初めての受診とまとめ 初めての受診で準備しておくこと
医師に伝えると良いこと
いつから痛いか、何がきっかけで始まったか
どこが痛いか。指で示せる場所か、広い範囲か
どんなときに痛いか。動くと痛いか、安静時も痛いか、夜間はどうか
足にしびれや痛みがあるか、どこまで広がるか
おしっこやお通じに変わりはないか
今飲んでいる薬(お薬手帳があれば持参)
過去の手術や大きな病気、特にがんの既往
日常生活でできなくなったこと(具体的に)
よくある質問
Q: MRIを撮らないのはなぜ?
A: 危険信号がなく、神経症状もない場合、MRIの「異常所見」の多くは正常な老化です。撮ると、不必要な不安や追加検査につながることがあります。医師が必要と判断した場合は、適切なタイミングで検査を行います。
Q: レントゲンとMRIの違いは?
A: レントゲンは骨の形を見る検査で、骨折や背骨の並び方を確認できます。MRIは椎間板、神経、軟部組織を詳しく見ることができます。それぞれ得意分野が違います。
Q: セカンドオピニオンを受けたほうがいいですか?
A: 手術を勧められた場合は、セカンドオピニオンを受けることをお勧めします。慢性腰痛では、手術が本当に必要かどうかを特に慎重に判断する必要があります。
まとめ
腰痛の診断の中心は問診と身体診察で、画像検査はその補助です
MRIが必要なのは、危険信号がある場合や手術を検討する場合です。「念のため」の撮影は逆効果になることがあります
60歳以上の方では、SLRテストの感度が33%まで下がります。テストが陰性でも安心はできません
イエローフラッグ(心理的要因)は、MRIの所見よりも痛みの慢性化を正確に予測します
慢性腰痛の37%に神経障害性の痛みが含まれており、PainDETECTで評価できます
診断的ブロック注射は役に立ちますが、偽陽性率が高いため、結果の解釈には注意が必要です
MRIに異常があっても、手術が必要とは限りません。
主な参考文献
Chou R et al. "Diagnosis and treatment of low back pain: a joint clinical practice guideline." Ann Intern Med. 2007;147(7):478-91.
Brinjikji W et al. "Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations." AJNR Am J Neuroradiol. 2015;36(4):811-6.
Srinivas SV et al. "Application of 'less is more' to low back pain." Arch Intern Med. 2012;172(13):1016-20.
Jenkins HJ et al. "Imaging for low back pain: is clinical use consistent with guidelines?" Spine J. 2018;18(12):2266-2277.
Qazi SA et al. "The diagnostic accuracy of straight leg raise test in patients more than 60 years." J Neurosci Rural Pract. 2023;14(4):610-614.
Pincus T et al. "A systematic review of psychological factors as predictors of chronicity/disability." Spine. 2002;27(5):E109-20.
Waddell G et al. "A Fear-Avoidance Beliefs Questionnaire (FABQ)." Pain. 1993;52(2):157-168.
Freynhagen R et al. "painDETECT: a new screening questionnaire." Curr Med Res Opin. 2006;22(10):1911-20.
Cohen SP et al. "Consensus practice guidelines on interventions for lumbar facet joint pain." Reg Anesth Pain Med. 2020;45(6):424-467.
Fairbank JC, Pynsent PB. "The Oswestry Disability Index." Spine. 2000;25(22):2940-52.
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